本研究は,幼年時代に実父から身体的な暴力を頻繁に受けたクライエントに対する面接過程に関する考察である。本事例においては,クライエントの父親の虐待場面に接近して,支援をしようとしたが,気分が悪くなったり,フラッシュバックの様相をみせることから,容易にカウンセリングの核心部分を行えない状況であった。そこで,交流分析理論における「禁止令からの衝動性をドライバーが和らげる」との理論と,NLPの「恐怖症の即効治療」の技法を用い,父親からの虐待記憶を和らげながら,EMDRを実施した。また,その侵襲性については,SUDS(主観的障害単位)を用いたクライエント自身の評価を参考に,慎重に対処した。結果は,虐待場面を思い浮かべながらEMDRの両側刺激を受けても,侵襲的にならずに,カウンセリングが可能であった。また,カウンセリングの過程が短期で終了し,クライエントの負担が軽減された。