本稿では、モスクの建設と利用を通した、新市街の現代モロッコ都市への再編過程の一端を明らかにし、モスクを核とした複合文化空間の意義の検討を目的とする。新市街は西欧型生活様式に即した空間であったが、今日の課題は既存ストックとしての新市街の、現代モロッコ本来都市への再編である。宗教生活の根幹としてのモスクは、小モスクの胎動期を経て少数で大規模な近代建築として普及したが、その存続のためにハブース店舗を埋設した点で、計画された複合施設としての発展形態をとっている。空間的特質としては、ブロック上で中庭をもたないが、複数の入口を通して外部へと開放されている。また、ハブース店舗が周辺の一般商店街と連坦し、かつ道路が露店スークとして利用され、商業を通した広場・道路との連携が見られる。バロック型の既存ストックを積極的に活用して、フランス文化とモロッコ文化の複合文化都市を目指すことが考えられる。