都市計画論文集
Print ISSN : 1348-284X
第38回学術研究論文発表会
セッションID: 2
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発展途上国における地域環境保全システムの形成に関する研究
-タイ王国サムットプラカーン県汚水処理場建設問題に関する地域の合意形成の実態分析-
*松行(村上)  美帆子 城所  哲夫  大西  隆
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抄録

現在、発展途上国の環境破壊の一つとしては、急速な経済発展に、伝統的な地域環境保全のシステムが対応しきれず、かつ、新たな近代的な環境価値に基づいた地域環境保全システムの形成が間に合わなかったためである。そこで、途上国においては、新たな地域環境を保全するシステムの形成が緊急の課題となっている。本研究は、地域環境保全システムの構成要素の中で、人々の近代的環境価値の受容と合意形成のためのシステムの形成という「社会システムの変容」、「民主的政治システムの確立」、環境アセスメントや環境規制、都市計画制度などの「制度の導入」の3項目に着目し、これらの達成の時間差によってどのような問題点が発生したか、そして、どのような地域環境保全システムが形成されつつあるのかを明らかにすること、事例を通じて海外援助のあり方について示唆を得ることを目的とする。タイ王国の、サムットプラカーン県クロンダン地区汚水処理場建設反対運動をケーススタディとする。この問題は、ADBやJBICの融資により建設されている大型の汚水処理場に、地元住民が環境破壊などの観点により反対運動を繰り広げている。建設を地元議会が承認してしまった背景、地域内の合意形成のプロセス、地域外の主体との合意形成に向けた働きかけなどを分析した結果、以下の知見が得られた。
 クロンダンの事例では、民主的な政治システムの確立は途上段階であった。そのため、この大型施設の建設に関して、環境を保護する機能を持つと期待される都市計画制度などは、有効に機能することができなかった。また、地方自治制度も確立されつつあるが、機能を果たすことができなかった。
 一方、社会システムに関しては、村落の伝統的な合意形成システムが依然有効に機能した。また、この伝統的な合意形成システムが、NGOやマスコミ、そしてそれらを通じてタイ社会、特に近代的な環境価値観を共有するであろう都市中間層と結びついたことによって、汚水処理場の建設に反対運動はより強力なものとなった。
政治システムに関しては、民主制が確保されたとしても、投票による代表制民主主義の限界のもとで、住民の環境保全の意志を反映した結果を生むとは限らない。そこで、社会システムによる参加で、この代表制民主主義の限界を補完する必要があると思われる。
  また、国際援助機関が援助を行う際のガイドラインでは、環境アセスメントの実施などの制度的手続きや議会の承認といった政治的な手続きのみを基準としている。しかしながら、クロンダンのケースでは、プロジェクトの承認を行ったタンボン議会が現実には住民の意思を反映した結果を出すことができなかったことや、民主的政治制度の確立がなければ、制度は有効に働かないことなどから、政治的、制度的手続きのみでは、社会的な公正を判断することは難しい。そこで、援助の決定の際には、社会的な合意形成がなされているかまで踏み込んだ検討が必要となると言えよう。

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© 2003 公益社団法人 日本都市計画学会
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