Dental Medicine Research
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総説
唾液腺の機能障害とその回復
美島 健二
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2012 年 32 巻 3 号 p. 146-153

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抄録

難治性の自己免疫疾患であるシェーグレン症候群や頭頸部癌の放射線治療後などにみられる重篤な唾液分泌障害は, 齲蝕, 口腔内感染症, 摂食嚥下障害および誤嚥性肺炎などの一因となり, 著しいQOLの低下をもたらす原因となることが知られている. これらの対処法の現状としては, 人工唾液の使用や残存する腺房細胞の分泌を促進するムスカリン性アセチルコリン受容体アゴニストなどの服用があげられる. しかしながら, 腺組織障害が高度で症状が重篤な症例では, これらの治療法が奏功しない場合も認められることより, より効果的な治療法として失われた腺細胞を体外から移入する細胞治療の応用が考えられている. 細胞治療では, 移植細胞のソースとして幹細胞の応用が図られているが, その理由として幹細胞は自己複製能と多分化能を併せ持つことより長期にわたり生体内で娘細胞を作り出し, 組織の恒常性維持に寄与する可能性が期待されるからである. 幹細胞の種類には, 造血幹細胞 (HSC) や間葉系幹細胞 (MSC) に代表される組織固有に存在する組織幹細胞や受精卵の胚盤胞の内部細胞塊由来の胚性幹細胞 (ES細胞), さらにES細胞同等の多分化能を有する人工多能性幹細胞 (iPS細胞) がある. これまでのところ, 放射線照射により唾液分泌障害を誘導したマウスを用いた治療実験では, Lombaertらが, sphere培養により濃縮されたc-Kit陽性唾液腺細胞に腺組織再構築能が認められ, 唾液分泌量の回復を報告している. さらに, Sumitaらは, 骨髄由来細胞にも唾液腺組織の再構築能があることを報告している. 加えて, 興味深いのは, これらの細胞から分泌される液性因子が残存腺組織の保護や再生に関与している点である. 実際, 我々も, 唾液腺に存在するCD31陽性血管内皮様細胞に液性因子を介した唾液分泌障害抑制機能があることを報告してきた. このように, 幹細胞の種類によりその特性が異なることが考えられ, これらの特性に応じた細胞治療への応用が今後ますます期待されると考えられる.

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© 2012 昭和大学・昭和歯学会
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