昭和歯学会雑誌
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ヒト乳歯歯根吸収機構の微細形態学的解析 (第1報)
走査電顕, 反射電子検出器ならびに電顕的酵素組織化学による解析
松田 恵里子
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1990 年 10 巻 3 号 p. 298-312

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抄録

乳歯の生理的歯根吸収過程における破歯細胞の機能的役割を明らかにするため, ヒト乳歯の歯根吸収面を微細構造学的ならびに酵素組織化学的に分析した.歯根吸収初期におけるセメント質, 吸収中期における歯根象牙質, そして吸収晩期における歯頸部エナメル質の各吸収面を走査電顕で観察すると, いずれの組織の吸収面も大小不同の吸収窩からなり, セメント質と象牙質の吸収面にはそれぞれシャーピー線維の断端や基質コラーゲン線維の露出像が認められた.また象牙質吸収面には, 管周基質の溶解による象牙細管腔の拡大が生じていた.歯頸部エナメル質に形成された吸収窩の表面性状は一様ではなく, 主にエナメル小柱体部が強く溶解されているものと, 小柱鞘を中心とする小柱体辺縁部がより強く溶解されているものとの2型に区別された.反射電子検出器による象牙質の吸収窩表層の組成像の観察では, 吸収窩表層の管間および管周基質の黒化度の上昇, すなわち無機質量の減少がみられた.次に透過電顕で象牙質およびエナメル質の吸収面に存在する破歯細胞を観察すると, 吸収窩に局在する破歯細胞は象牙質ならびにエナメル質吸収のいずれにおいてもrufned border (波状縁) を有し, その細胞間隙と隣接する貧食空胞内にはタンニン酸可染性の微細な無定型物質が認められた.しかしコラーゲン線維の破歯細胞内への取り込み像は観察されなかった.破歯細胞におけるライソゾーム性の酸性ボスファターゼの細胞内局在には基質特異性があり, β-glycerophosphateを基質に用いた場合, 酵素活性が破歯細胞のゴルジーライソゾーム系にのみ検出されるの対し, trimetaphosphate, p-nitrophenyl phosphateを用いた場合はゴルジーライソゾーム系に加えてruffled borderの細胞間隙と吸収窩表面に酵素活性が検出された.また破骨細胞のマーカー酵素である酒石酸抵抗酸性ホスファターゼ (TRAP) 活性を電顕酵素化学的に調べたところ, 破歯細胞に酵素活性は全く認められなかった.以上の結果から, 破歯細胞は破骨細胞同様の硬組織吸収能を持つが, 破骨細胞とはやや異なった表現形質を示すことが示唆された.

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