昭和歯学会雑誌
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各種酸性抗炎症薬のカルシウム恒常性におよぼす影響の比較検討
坂本 潤
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1991 年 11 巻 2 号 p. 255-264

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抄録

今回の実験では, 酸性抗炎症薬における血中カルシウム濃度の変化およびcalvariaの骨吸収抑制作用の有無を検討した.血中カルシウム濃度に関しては, Wistar系雄性ラットを実験の前日の夕方より絶食させた (水は自由摂取).各酸性抗炎症薬の投与量は10倍単位で3種類とし, 5%CMCを含む生理食塩液にて懸濁したものを背部に皮下注射した.対照群には同じ液量の5%CMCを含む生理食塩液を注射した.血中カルシウム濃度の日内変動の影響を少なくするため, 注射時刻は午前10時-11時の間に行った.注射後, 1, 2, 4, 6, 8, 24時間にラヅト尾静脈より採血した.血清カルシウム濃度は原子吸光分光光度計にて定量した.骨吸収抑制に関しては生後0日齢のICRマウスに45Ca 2.5μCi/mouseを背部皮下に注射投与した.その4日後にHalf-calvariaを取り出し5%FBSを含むBGJb培地にて培養した.培養開始から24時間後に薬物を添加し, 薬物添加後48時間における培地中およびcalvaria中の45Caを測定した.その結果, 今回使用したすべての酸性抗炎症薬において, 高濃度ではin vitroにおいて骨吸収を抑制した.また, 絶食中のラットの皮下に注射すると, SSの400 mg/kgは投与後2-3時間で, またPHEの308.4mg/kgは投与後8時間で血中カルシウム濃度が有意に低下し, 24時間後には回復した.INDは35.78mg/kgの投与で, またDICは318.4mg/kgの投与で血中カルシウム濃度が24時間後に有意の低値を示した.しかし, MEFは大量の投与でも24時間以内に血中カルシウム濃度の変化が見られなかった.以上の結果より, 一部の酸性抗炎症薬の投与によって, ラットの血中カルシウム濃度が低下する現象には, 薬物投与後, 比較的短時間に発現する場合と, 投与後24時間で発現する場合のあることが明らかとなった.比較的短時間で血中カルシウム濃度が低下するSSやPHEはPG合成阻害作用が弱く, おそらく, PG合成阻害以外の作用によって骨吸収を抑制する結果, 血中カルシウムの低下が起こるものと考えられる.また, 投与後24時間ではじめて血中カルシウム濃度が低下するINDやDICはPG合成阻害作用が強く, おそらく非可逆的な腎障害が徐々に進行する結果, 24時間後に低カルシウム血症が発現すると考えられる.一方, PG合成阻害作用の強力なMEFでは, 投与後の初期においては骨吸収と骨添加が同程度に抑制されるため, また24時間においては, 腎障害があったとしても可逆的なため, 腸管からのカルシウム吸収によって回復したものと考えられる.

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