昭和歯学会雑誌
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幼若ラットの歯槽縁の形成過程に関する超微形態学的研究
秋元 あずさ
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1992 年 12 巻 2 号 p. 164-182

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抄録

急速に成長を遂げる幼若ラットの下顎骨歯槽縁の形態的変化と暫間的に歯槽縁に出現する軟骨様骨組織の経時的変化を光学顕微鏡で観察するとともに軟骨様骨細胞およびその周囲の細胞の超微形態を透過電子顕微鏡で観察した.また, ヒト胎児の顎骨に出現した軟骨様骨組織も併せて観察し, 両者の相違についても検討した.ラット下顎骨臼歯部歯胚上方は, 胎生19日齢から出生直後まで, 臼歯前方から後方にかけて樋状に開いているが, 生後3~7日齢にかけて前方より速やかに骨性閉鎖された.その後, 歯槽頂の骨は再び歯牙萌出に伴って吸収されて, 歯が萌出した.生後0日齢に頬舌側骨壁先端と連続して出現する軟骨様骨組織は, 光学顕微鏡的にはHE染色で骨と軟骨の中問的な染色性を示した.軟骨様骨組織は, ヒトでは胎生後期に歯槽縁先端に出現した.透過電子顕微鏡所見では, 軟骨様骨細胞は, 隣接する骨組織中の骨細胞より大型で相互に近接して存在しており, 基質合成に関与する良く発達した細胞内小器官を有していた.また, 細胞辺縁部には細胞周囲基質の小範囲のリモデリングを示唆する被覆小胞や細線維を含んだ桿状小体が認められた.軟骨様骨細胞の細胞突起は, 硝子軟骨細胞様を呈しており, 突起相互の接触も観察された.軟骨様骨基質は, 基本的には不規則な走行に配列されたI型コラーゲン細線維と多量のプロテオグリカンで形成されていた.軟骨様骨組織と骨組織との移行部付近では, コラーゲン細線維は規則的に配列されており, 細線維間には凝集プロテォグリカンとともに石灰化物の結晶も観察された.軟骨様骨組織は, 胎生19日齢では観察されず, 同部位には電子顕微鏡的に小型の間葉系細胞様を呈する細胞が存在した.これらの細胞が, 口腔内環境の変化によって軟骨様骨細胞に変化し, 歯槽縁の骨の成長を誘導すると考えられる.軟骨様骨組織における石灰化は, 歯槽縁の成長に伴いその基底部より徐々に波及していた.石灰化部位は, 破骨細胞性基質吸収と骨芽細胞の進出とにより骨基質と置換し, 軟骨様骨細胞は骨細胞として骨中に留まる一部を除き, 最終的に骨芽細胞あるいは線維芽細胞になる可能性があると考えられる.ヒトとラッワットにおける軟骨様骨組織の出現時期の相違は, ヒトでは胎生後期に指の吸暖による口腔内の陰圧が発生し, ラットでは生後に哺乳により口腔内の陰圧が発生する, すなわち, 軟骨様骨組織の誘導を示唆する口腔内環境変化に, ヒトとラットでは時期的な相違があるため生ずると考えられる.

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