1993 年 13 巻 3 号 p. 218-229
インスリン欠乏型糖尿病における歯根膜の線維芽細胞と骨芽細胞の微細構造ならびにコラーゲン代謝の変化を解析する目的で, ラットにストレプトゾトシン (STZ) を静注して糖尿病を誘導し, 下顎臼歯の歯根膜線維芽細胞と骨芽細胞の細胞構造の経日的な変化とタンパク合成能の変化を, 通常の光顕・電顕的観察に加え3H-プロリンを用いた電顕オートラジオグラフィーによって検索した.経日的に, 線維芽細胞の配列は不規則となり, 細胞体の極度の扁平化, 自己融解小体の増加また細胞の多核化等の形態変化が生じた.歯根膜の骨芽細胞は, 対照群 (STZ非投与群) ではゴルジーRER系のよく発達したタンパク合成系の細胞構造を示し, 経時的に3H-プロリンのゴルジ領域への取り込みと類骨層への分泌が観察された.しかしSTZ投与群では, 骨芽細胞の外形は極度に偏平化したbone-1ining cellの像を呈し, 3H-プロリンの細胞内取り込みと類骨層への分泌は著しく減少していた.また類骨層の幅も減少していた.STZ投与によって, 歯根膜線維芽細胞に同様のタンパク合成の低下が生じることは著者らがすでに報告した。以上の実験結果から, インスリン欠乏型糖尿病では歯根膜の線維芽細胞と骨芽細胞のコラーゲン合成能が著しく低下するとともに細胞の退行性変化が進み, 歯周疾患の重要な増悪因子 (基礎疾患) となることが示唆された.