昭和歯学会雑誌
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成人顎関節円板のコラーゲン細線維構築に関する立体微細形態学的研究
山本 漢〓瀬川 和之滝口 励司
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1998 年 18 巻 4 号 p. 388-399

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抄録

ヒト顎関節円板の外力緩衝様式を検討するために, 緩衝構造として重要なコラーゲン細線維の立体構築を走査電子顕微鏡を用いて詳細に観察した.ヒト顎関節円板各部位の細線維構築の典型像を解明するために, 顎関節に影響を及ぼす外来要素の可及的少ない上下顎の第2大臼歯までの全ての, あるいは可及的全ての歯が残存し, 未処置齲歯の無い成人解剖用遺体で, 形態異常の認められない顎関節円板を材料とした.前方肥厚部では前後および内外側方向に配列する細線維束が関節面に平行な層構造を形成していた.前後方向に配列する細線維束は漸次増加して, 中央狭窄部の主線維束に移行していた.前方肥厚部と中央狭窄部との境界部では, 前後および内外側方向に配列する細線維束からなる層構造が認められたが, 中央狭窄部の中央付近では, ほぼ前後方向に配列する細線維束が主線維束を占めていた.しぼしば上下方向に配列する細線維束も混在していた.前後方向に配列する細線維束には, 直線状および蛇行状に配列する二種類が認められた.中央狭窄部の細線維束の役割は伸展負荷の伝達, 抗伸展作用および円板形態の維持であることが推察されるが, 蛇行状配列の細線維束はある程度の組織伸展を許容し得る可能性も示唆している.前後方向に配列する細線維束は前方肥厚部から後方肥厚部にかけて連続的に認められたが, この連続性は円板形態を維持しつつ, 前後方向の伸展負荷を円板の前方から後方までの全域に伝達するために必要な線維構築であると考えられる.中央狭窄部では通常認められる紡錘形の線維芽細胞の他に, 類円形の細胞が局所的に存在していた.類円形の細胞の周囲では細線維束は不規則な配列を示した.これらの細胞は, 何らかの機械的刺激や加齢による組織代謝の変化を誘因として, 血液流路の範囲外の中央狭窄部に出現した軟骨細胞であると考えられる.中央狭窄部と後方肥厚部の境界部付近では.前後方向の細線維束問に内外側方向に配列する細線維束が著明に混在するようになり, 中央狭窄部と前方肥厚部との境界部と類似した線維層構造が形成されていた.後方肥厚部は線維束構築の相違によって, 前後方向に配列する細線維束を主体とする関節面側表層, 前後, 内外側および上下方向に配列する細線維束からなる層構造を示す表層直下, 細線維束の大部分が不規則に交錯する肥厚部中央および細線維束の蛇行状あるいは螺旋状配列が認められる円板後部結合組織との境界部の四部に区分できた.後方肥厚部では, 機能圧緩衝には関節面側表層および表層直下の線維構築が, 伸展負荷の緩衝には境界部における蛇行状および螺旋状配列を示す細線維束が重要な機能を果たすと考えられる.

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