昭和歯学会雑誌
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下顎骨咀嚼筋付着部の緻密骨の線維性基質と海綿骨の骨小柱の力学的構築に関する微細形態学的研究
星野 睦代野中 直子江川 薫滝口 励司
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1999 年 19 巻 2 号 p. 176-190

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抄録

層板骨は多数の骨層板の重積された基礎層板, ハバース層板ならびに介在層板からなる緻密骨と, 少数の骨層板の重層からなる海綿骨とで構成されている.緻密骨や海綿骨の骨層板には骨基質を構築する主たる有機性基質であるコラーゲン細線維が一定の方式にかなって配列されている.すなわち, 層板骨の緻密骨と海綿骨との配分による構築と, 骨層板内のコラーゲン細線維の配列の主たる方向は骨組織に作用する圧縮, 牽引, 歪みなどの応力に対抗しうる力学的合理性をもっている.顔面骨の1種である下顎骨も典型的な長骨に匹敵する構造を備えており, 比較的薄い皮質骨である緻密骨と, 骨小柱が網状構造を呈する海綿骨とで構成されている.下顎骨には付着する筋の作用による牽引力が他の形態の骨と同様に加わる一方, 歯根膜を介しての咀嚼圧も応力として作用するので, 成人の下顎骨を構成している骨層板と骨基質内のコラーゲン細線維の配列は咀嚼筋による牽引や咀嚼力に適合した構築を呈していると考えられている.本研究では下顎骨咀嚼筋付着部の緻密骨の線維性基質と海綿骨の骨小柱の力学的構築と, 下顎骨に加わる咀嚼筋の牽引による応力とについて検討する目的で, 解剖学実習用男性遺体から摘出した有歯下顎骨の主として緻密骨の線維性基質について高分解能の走査電子顕微鏡で観察した結果を考察した.下顎骨の咀嚼筋付着部である外基礎層板の最表層の線維性基質は束状のコラーゲン細線維からなる基質線維束で構築されていたが, 基質線維束は咀嚼筋の牽引による応力に適合した配列を呈していた.下顎角部の咬筋粗面と翼突筋粗面は下前方から上後方に配列された基質線維束で構成されていた.側頭筋の付着部である筋突起の中央部は下方から上方へ, 前縁付近は下前方から上後方に, 後部は下後方から上前方に配列された基質線維束で構築されていた.外側翼突筋の付着部である翼突筋窩は下前方から上後方に配列された基質線維束で構築されていた.咀嚼筋付着部の基質線維東間には咀嚼筋の付着腱が侵入していた.咀嚼筋付着部の外基礎層板は最表層の基質線維束と同一方向の配列からなる厚径約3μmの骨層板と隣接する基質線維束が斜めに交叉する厚径約1μmの骨層板とが相互に配列されて構成されていた.一方, 咀嚼筋付着部のハバース層板を構成しているオステオンは外基礎層板の最表層の基質線維束と同一方向の配列からなる厚径約5μmの骨層板と, ほぼ同心円状に配列された基質線維束からなる厚径約1μmの骨層板とが交互に配列されて構築されていた.下顎骨の咀嚼筋付着部である海綿骨は扁平な骨小柱で構築されていたが, 海綿骨の骨小柱は咀嚼筋の牽引に適合した力学的構築を呈していた.下顎角部は下前方から上後方への配列の骨小柱で構築されていた.翼突筋窩部は前下方から後上方に配列された骨小柱で構築されていた.筋突起は緻密骨からなる外側壁と内側壁とが癒合していた.

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