2000 年 20 巻 2 号 p. 241-251
本研究の目的は, 片側性唇顎口蓋裂患者の上顎複合体の劣成長を伴う反対咬合に対して, 上顎前方牽引装置を用いて治療を行った際の治療効果の実態の把握と, 治療後6か月~2年の経過観察中の変化の把握である.研究対象は, 昭和大学歯科病院矯正科を受診し, 同一の矯正歯科医により上顎前方牽引治療が施行された片側性唇顎口蓋裂患者7名である.これら研究対象の治療前・上顎前方牽引終了時・6か月~2年までの経過観察時の顎顔面骨格および歯槽骨の変化を側面頭部X線規格写真を用いて分析した結果, 次のような結論が得られた.1.本装置の反対咬合の改善機序は, 上顎複合体の前方誘導と, 下顎骨の後方回転, および上顎歯槽部の唇側傾斜, 口蓋平面の反時計廻りの回転によるものであった.2.被蓋改善後の経過観察中に, 反対咬合が再発したものは7例中4例で, その原因は1.治療により唇側移動した前歯の舌側傾斜, 2.治療により後下方へ回転した下顎骨の前方への後戻りであった.3.乳歯列期からの上顎前方牽引の適用が骨格および咬合の改善をもたらしたが, 装置撤去後に臨床上好ましくない後戻り変化をみるものもあった.