昭和歯学会雑誌
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矯正学的歯の移動と歯根膜線維の立体構造変化の関連
林 幸枝
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2000 年 20 巻 3 号 p. 310-321

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抄録

歯の支持機構を, 組織形態学見地から検討する目的で, 雑種成犬の上顎第三切歯を近心方向に約150gで7日間移動させ, 歯根各領域における歯根膜線維の観察を行った.歯根膜の4領域 (1, 歯頚側近心部2, 歯頚側遠心部3, 根尖側近心部4, 根尖側遠心部) の観察部位における歯根膜およびシャーピー線維進入部の立体構造を歯の移動前後で比較した.対照群歯頚側における光学顕微鏡観察では, 一定方向に規則的配列を示す歯根膜コラーゲン線維と, 歯軸方向に沿ってコラーゲン線維束に直交する弾性線維が観察された.根尖側では不規則に交錯する線維束が網状構造を呈していた.歯槽骨, セメント質移行部では集束したシャーピー線維が深部にまで到達し, 歯頚側においてより密で細い束であった.実験群における歯根膜コラーゲン線維は圧迫側で屈曲, 牽引側で伸張を示し, ともに疎になっていた.一方, 弾性線維は増加, 配列変化を示した.電子顕微鏡観察にて各領域の詳細を得た結果, 特に牽引側の弾性線維は配列変化が著明で, 多方向に伸張, 伸展を示していた.移行部のシャーピー線維の変化は線維束の減少と直径の小型化が顕著で, その傾向は根尖側より歯頚側で, 牽引側より圧迫側で, セメント質側より歯槽骨側でより顕著であった.以上の所見は歯根膜線維と歯根膜シャーピー線維の改築機構が, 歯根膜における応力の分布, 方向性, 強度を反映した組織構造の適応であることを示唆している.

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