昭和歯学会雑誌
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人類学的にみた日本人の歯列弓と口蓋の形態学的研究
柴垣 博一若月 英三
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2000 年 20 巻 4 号 p. 449-465

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抄録

モンゴロイド集団というのは, 大きく分けて2つのグループに分けられるという.1つはSinodont (中国型歯形質) とよばれるもの, もう1つはSundadont (スンダ型歯形質) である.日本では, このSundadontをもつ縄文人が1万年ほど前に渡来した.しかし, その後, 約2000年前にSinodontをもつ弥生人が朝鮮半島経由で渡来し, 混血して現在のようなSinodontが優性な日本人が形成されたといわれている.そこで著者らは, モンゴロイドの基盤となる集団と近縁であると考えられるSundadontに属する南方系のフィリピン人とSinodontに属する日本人と日本人の起源と関係の深い北方系の中国人の各々の上顎口腔内石膏模型を作製した.これらの上顎口腔内石膏模型をレーザー計測装置SURFLACER VMS-150R-D (UNISN社) を用いて三次元的に計測し, パソコン上で画像解析ソフトSURFACER (米国IMAGEWARE, INC) で, 歯列弓の大きさと口蓋の深さ (前頭断面, 矢状断面) について解析し, これらを統計学的に検討した.その結果, 日本人が中国人に近い項目は歯列弓の大きさの項目が多く, 日本人がフィリピン人に近い項目は口蓋の前頭断面の中央部と口蓋の矢状断面の後方部で, 日本人が両者の中間の項目は第二大臼歯の歯列弓幅で, 日本人が大きい項目は, 前歯列弓長, 犬歯弦であった.以上を要約すると, 現在の日本人の歯列弓の大きさと口蓋の深さは北方系の中国人と南方系のフィリピン人の要素が複雑に混血しているが, 歯列弓の大きさは中国人に近く, 北方系弥生人の要素が強く, 口蓋の深さ (前頭断面の中央部, 矢状断面の後方部) はフィリピン人に近く, 南方系縄文人の要素が強い.さらに, 日本人の口元は出っ張り気味で北方系弥生人の要素が強いことが示唆された.

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