昭和歯学会雑誌
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保定期間における男子不正咬合患者の咬合力の変化と下顎前歯の後戻り様相について-感圧型咬合紙による咬合力と下顎前歯のirregularity indexとの相関性-
斎藤 茂三河 雅敏倉林 仁美
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2003 年 23 巻 2 号 p. 119-128

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抄録

本研究では各種不正咬合患者の咬合力が器械保定中にどのような変化を起こすのかを感圧型咬合紙のデンタルプレスケールを用いて測定し, さらに治療前後の下顎歯列模型より乱配度 (irregularity index;以下I.I.) を指標とした後戻り率を算出した.これにより保定期間中の咬合力の変化と矯正治療による下顎前歯の後戻り率との間にいかなる相関があるかを不正咬合別に比較検討した.対象は昭和大学歯科病院矯正科に通院中の男子で, 1) 顎口腔系に臨床的な機能異常がなく, 2) 顔面の極端な非対称を呈さず, 3) 唇裂, 口蓋裂がなく, 4) 上下臼歯部に欠損や著しい歯冠崩壊がなく, 5) 第二大臼歯がすべて萌出, 咬合しているもの, の各条件をすべて満たすものをI, II, III級 (Cl.I, II, III) さらに外科的III級 (S-Cl.III) に分類した.これら対象患者はすべてマルチブラケット装置による治療を終了し器械保定中であり, デンタルプレスケールの採得は保定初期 (保定開始6か月未満) と後期 (保定1年6か月以上) に, またI.I.の測定は動的治療開始前と保定後期にそれぞれ行った.その結果S-Cl.IIIを除くすべての不正咬合型において, 保定期間中の咬合力の増加と下顎前歯の後戻り率の間に正の相関がうかがわれ, 特にCl.IとCl.IIにおいては両者の相関は統計学的に有意であった.各不正咬合型の咬合力は保定初期では, Cl.III>S-Cl.III>Cl.I>Cl.IIの順で, 保定後期ではS-Cl.III>Cl.I>CI.III>CI.IIの順となり, その結果として保定期間中の咬合力の増加はCl.I>Cl.II=S-Cl.III>Cl.IIIの順であった.各不正咬合型の動的治療開始時と保定後期のI.I.さらには下顎前歯の後戻り率はいずれもCl.II>Cl.I>Cl.III>S-Cl.IIIの順であった.以上より, 骨格的な不調和が大きいとされるS-Cl.IIIでは顎切除術による骨格的不調和が改善されたことで, 骨格的な不調和が少ないとされるCl.Iと同様に保定期間中の咬合力の増大が認められた.下顎前歯の後戻り率はCl.IIが大きく, Cl.IIIやS-Cl.IIIは少ない傾向となった.これは下顎の劣成長により, 治療前から下顎前歯部に強い叢生が認められるCl.IIでは後戻りを起こしやすく, 反対に比較的大きな下顎を有するCl.IIIやS-Cl.IIIでは後戻りを起こしにくいのであろうと推察された.

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