昭和歯学会雑誌
Online ISSN : 2186-5396
Print ISSN : 0285-922X
ISSN-L : 0285-922X
磁石の反発力を応用した咬合調整法に関する研究
磁石の位置の変化が反発力に及ぼす影響の有限要素法による分析
堀江 伸行渡邉 武之鈴木 潔芝 〓彦
著者情報
ジャーナル フリー

2004 年 24 巻 2 号 p. 87-94

詳細
抄録

無歯顎難症例ではわずかな力により義歯床の偏位や移動が生じるため, 咬合調整の際の早期接触部位を検出するのは, 通常の方法では極めて困難なことが多い.筆者らはCoble intra-oralbalancerをもとに, 磁石の反発力を利用した咬合調整用補助装置を考案した.本装置は中心咬合位付近で反発力が最大となり, 口腔内で上下顎義歯床を顎堤粘膜に確実に圧接できるため, 義歯床は偏位, 移動することなく安定し, 中心咬合位での早期接触部位を正しく検出できる.しかし, 反発する磁力が顎位あるいは義歯の偏位に及ぼす影響は明らかではなく, 義歯の移動量によっては反発力が逆転する可能性もある.そこでこれらを明確にするために, 垂直間距離あるいは水平間距離を変化させた場合と, 下顎運動をシミュレーションした場合に反発力の大きさと方向がどのように変化するかについてを有限要素法を用いて検討した.その結果, 磁石間を平行に保った状態で垂直的に磁石を離していくと, 反発力は距離の自乗に反比例して減少した.磁石を上下義歯の中央に設置し下顎運動をさせた時に, 磁石が接触しないためには磁石間距離は5mm必要であり, その時の垂直反発力は974gfとなった.磁石間距離を5mmに保ち水平的に磁石を移動させたところ, 10mmで水平反発力の方が垂直反発力よりも大きくなった.口腔内の運動を想定した場合, 開口運動では開口量が大きくなるに従って垂直反発力は減少し, 水平反発力は増大した.開口量40mmで垂直反発力が水平反発力よりも小さくなった.前方, 側方運動では垂直反発力は移動量が大きくなるにしたがって減少し, 水平反発力が増大したが, その値はhorizontal condylar indicationの角度が大きくなるにしたがって, その減少は大きかった.したがって義歯の偏位, 移動を考慮すると開口量は30mm以内, 前方運動では8mm以内, 側方運動では16mm以内の移動量とする必要があることが判明した.この範囲の移動量であれば実際の臨床に応用可能であることが示唆された.

著者関連情報
© 昭和歯学会
次の記事
feedback
Top