昭和歯学会雑誌
Online ISSN : 2186-5396
Print ISSN : 0285-922X
ISSN-L : 0285-922X
乳歯の生理的歯根吸収に関する微細構造学的研究 (第2報)
乳歯根ならびに歯根膜の吸収における線維芽細胞, セメント芽細胞および単核マクロファージの関与にっいて
清水 照雄日吉 祥江
著者情報
ジャーナル フリー

1989 年 9 巻 3 号 p. 320-329

詳細
抄録

本研究は, 乳歯の生理的歯根吸収における線維芽細胞, セメント芽細胞, そしてマクロファージ等の間葉系細胞の役割を明らかにする目的で, 生後3-6か月の仔ネコの吸収期にある乳切歯を電子顕微鏡的に観察したものである.歯根吸収の初期段階では, 吸収組織は, 歯小嚢由来の多数の線維芽細胞と少数のマクロファージおよび破歯細胞からなり, 破歯細胞は幅広いクリアゾーンと狭い未発達の波状縁を有していた.吸収の進んだ段階では, 吸収組織は十分に発達した波状縁と退縮したクリアゾーンを持つ多数の破歯細胞, コラーゲン線維の合成と吸収の両活性を示すセメント芽細胞, コラーゲン線維を貧食した線維芽細胞, 細胞の断片を貧食したマクロファージ, 好中球, および多数の細血管より構成されていた.セメント芽細胞は, 通常破歯細胞に隣接した象牙質吸収面に分布し, ギャップ結合により互いに結合していた.これらのセメント芽細胞は, 吸収窩に露出した象牙細管中に太い細胞突起を伸長し, ここには分泌穎粒とコラーゲン線維を含む貧食空胞が観察された・歯根吸収の休止期においては, 禁象牙質表面の多くは線維芽細胞様のlining cellに覆われていた.Lining cellの一部は, 象牙質に面してクリアゾーン様の構造を形成し, ここに象牙質小片の貧食像が認められた.休止期の吸収組織中には, 時にマクロファージが出現するものの, 破歯細胞は観察されなかった.歯根膜の吸収過程においては, 多数の扁平な線維芽細胞が, 貧食空胞によって無定型の有機性基質とともに成熟したコラーゲン線維を貧食していた.この線維芽細胞によるコラーゲン線維の吸収は, 歯根の吸収過程を通じた歯根膜の破壊に共通して見られる特徴であった.マクロファージもまた歯根膜の吸収領域に観察されたが, コラーゲン線維の吸収には直接関与していなかった.以上の観察結果から, 乳歯の脱落過程においては, 破歯細胞同様, 上記の間葉系細胞が歯牙硬組織ならびに歯根膜の吸収に必須の役割を果たしているものと考えられた.

著者関連情報
© 昭和歯学会
前の記事 次の記事
feedback
Top