日本皮膚科学会雑誌
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特異な臨床経過よりHTLVの関与しないATLLとの鑑別が問題となった菌状息肉症の1例
佐藤 典子村井 博宣八木 英一高橋 伸也浜中 純子
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1991 年 101 巻 11 号 p. 1323-

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抄録

特異な臨床経過を示した菌状息肉症の1例を報告し,若干の文献的考察を加えた.病初期に浸潤性紅斑の出現と共に,四肢遠位部に知覚障害を認め,抹消血中に種々の程度に核にくびれを有するhelper/inducer T細胞のモノクローナルな増多を認めた.浸潤性紅斑部の組織では表皮向性の強い小リンパ球様細胞が浸潤し,Pautrier微小膿瘍の形成を認め,浸潤細胞の表面マーカーはhelper/inducer T細胞であった.その後比較的緩徐な経過を辿り,末梢血にTリンパ球のモノクローナルな増加を認めなくなり,未梢の異常感覚も消失したが,発症から59ヵ月後急激に全身に皮膚腫瘤の多発と系統的リンパ節腫大が出現,その3ヵ月後に死亡した.末期腫瘤部およびリンパ節にはリンパ芽球あるいはimmunoblast様大型異型細胞の稠密な浸潤をみた.この大型異型細胞ではT cell receptor β chain遺伝子の再構成が認められ,表面マーカーはhelper/inducer T細胞であった.末期腫瘤部およびリンパ節でHTLV-1のproviral DNAは検出されず,且つ経過中HTLV-1抗体は陰性であった.本例ではHTLV-1の感染は証明しえなかったが,扁平浸潤期にleukemic lymphomaであった点,末期に急激に腫瘍細胞の芽球化を来し,腫瘤形成性に進行した点より定型的な菌状息肉症というよりも,Simoyamaらが1986年報告したHTLV-1の関与しないATLにより近いものと考えた.

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© 1991 日本皮膚科学会
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