1994 年 104 巻 7 号 p. 839-
種々の腫瘤細胞に分化を誘導するphenotypicmodifiersの一種であるhexamethylene bisacetamide(HMBA)にて培養ヒト國腫細胞を処理し,誘導される細胞形質の変化につき検討した.細胞増殖は濃度依存性に抑制されるものの,明らかな形態的変化は認められなかった.色素合成経路は,Dopa酸化能を2種の方法にて検討したが,いずれも対照の約50%までの抑制を示した.Western blot法ではTRP-1,PKC,および癌遺伝子関連蛋白(c-METならびにp53蛋白)の発現抑制がみられたが,PCNAおよびc-KITには著明な変化を示さなかった.したがって,HMBAの作用は限られた種類の蛋白合成あるいは分解調節に関わるものと考えられ,HMBAを含むいわゆる分化誘導剤の効果判定にはTRP-1およびp53蛋白の変化が有用なマーカーとなる可能性が示唆された.