日本皮膚科学会雑誌
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表皮嚢腫発生におけるヒト乳頭腫ウイルスの役割
大原 香子松倉 俊彦岩崎 琢也川島 眞
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1995 年 105 巻 8 号 p. 1073-

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抄録

表皮嚢腫とヒト乳頭腫ウイルス(以下HPV)感染との関連を,足底とそれ以外の部位に生じたそれぞれ12例,計24例について病理組織学的,免疫組織化学的に解析した.さらに,これらの組織からDNAを抽出し,制限酵素で切断後,HPV60をプローブとして用いたSouthern blot hybridization法を行い,HPV DNAの有無とその切断パターンについて検討を行った.足底表皮嚢腫12例のうち8例に,HPV 60感染に特異的な嚢腫壁を構成する細胞の細胞質内封入体と嚢腫内容の空胞様構造がみられ,封入体を有した細胞の核と空胞様構造にgenus specific antigen(GSA)が検出された.Southern blot hybridization法での解析でも,これらの例ではHPV 60のPst Ⅰ切断パターンを示すHPV DNAが検出された.さらに,組織・免疫組織化学的変化を見いだし得なかった残り4例のうち1例に,HPV 60 DNAが検出された.一方,足底以外に生じた表皮嚢腫では,いずれの例でも,上記の特異的組織変化がみられず,またGSAが陰性であった.しかし,Southern blot hybridization法による解析では,1例でHPV 60 DNAを検出し,足底以外の皮膚にもHPV 60が感染し,かつ嚢腫を形成しうる可能性を確認した.HPV 60 DNA陽性の足底表皮嚢腫にはHPV 60の感染に特異的な組織変化を見いだしえない症例があったことより,これまで非ウイルス性の足底表皮嚢腫と診断されてきた症例にも,ウイルス性足底嚢腫が含まれていたと考えられる.また,足底以外に生じた表皮嚢腫にも,HPV 60 DNAを検出できた例があり,今後HPV 60の感染が関与する表皮嚢腫をウイルス性嚢腫(viral cyst)と呼ぶことを提唱した.

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© 1995 日本皮膚科学会
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