抄録
61歳,男性.1948年から1991年まで43年間アスベスト工場に勤務.1992年5月に微熱,咳嗽,喀痰が出現し,経気管支肺生検等の結果,石綿肺と診断された.また,同年6月から両側手指の腫脹が生じ,Raynaud現象および皮膚硬化も生じてきたため皮膚生検を行い全身性強皮症と診断.以後プレドニゾロン維持療法にて肺症状も含め経過を観察していたが,1996年8月に悪性腹膜中皮腫を認め,同年9月に腎不全を合併して死亡した.石綿肺をはじめとする塵肺症に自己免疫疾患が高率に合併し,塵肺症はヒトアジュバント病の観点からも捉えられている.今回我々は,強皮症が石綿肺に続発し悪性腹膜中皮腫により死亡した1例を経験したが,経過中に悪性中皮腫にまで至った症例は極めて稀であると思われた.