日本皮膚科学会雑誌
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パラグアイからの帰国日本人に発症した粘膜皮膚リーシュマニア症
金子 玲子古川 裕利佐藤 正隆岩月 啓氏金子 史男星 美智子片倉 賢上里 博野中 薫雄古谷 正人橋口 義久
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1999 年 109 巻 8 号 p. 1185-

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抄録

17歳,男性.パラグアイで生まれ,9歳まで滞在した.3歳頃,右下腿内側に腫瘤がみられたが略治した.14歳頃から左鼻涙管狭窄,左鼻腔内に小結節が出現し,種々の治療に抵抗した.初診時,鼻翼,上口唇,軟口蓋,口蓋垂,咽頭後壁に肉芽腫性変化がみられた.病理組織学的検査では真皮全層にわたりリンパ球,組織球,形質細胞などの浸潤がみられ,臨床症状および組織所見などから粘膜皮膚リーシュマニア症(Mucocutaneous leishmaniasis)が考えられたが,虫体は認められず,培養も陰性であった.しかし,polymerase chain reaction(PCR)ではLeishmania(Viannia)braziliensis complexで増幅されるDNA断片に一致する70bpのbandを認め,また特異的probeを用いたSouthern blotting hybridization法でもPCR産物に一致してsignalがみられた.PCR産物はgene bankに登録されている)Leishmania(Vinnnia)braziliensisの塩基配列と一致するsequenceを得たので,本症例を粘膜皮膚リーシュマニア症と診断した.治療は厚生省「熱帯病治療薬の開発研究班」から供与された5価アンチモン剤(ペントスタム)を14mg/kg/day投与したところ,投与7日目から効果がみられ約2ヵ月で皮疹はほぼ消退した.本症例ではペントスタムの投与は約3カ月に及んだが重篤な副作用は認められなかった.残存する瘢痕は現在外来で経過観察中である.本症例の経験から,我々は,輸入感染症として粘膜皮膚リーシュマニア症に日々の外来診療で遭遇する可能性があることを強調した.

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© 1999 日本皮膚科学会
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