2017 年 127 巻 4 号 p. 595-600
日本の予防接種制度は科学的根拠をもとに整備されているが,社会情勢をうけ変遷してきた.制度開始当初,予防接種は社会防衛の手段であり義務規定であった.その後,予防接種禍に対する集団訴訟に国が敗訴すると,接種は努力義務とされ説明と同意による個人の権利の保障が重視されるようになった.その一方で偏った情報がもたらす漠然とした不安は予防接種に対する後ろ向きな姿勢を招き,長期にわたり新しいワクチンは導入されず制度は立ち遅れた.近年このワクチンギャップを解消すべく制度の改革が行われ,複数のワクチンの公的整備が進み,疾病疫学も劇的に改善した.現在も社会不安や成人の免疫未獲得層の存在など課題は多く,教育を通して安定した基盤を築くことが必要である.