日本皮膚科学会雑誌
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尋常性痤瘡の研究 尋常性痤瘡に於ける皮脂腺分泌と性ホルモンのこれに及ぼす影響に就て
久木田 良子
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1958 年 68 巻 9 号 p. 651-

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抄録

尋常性痤瘡は膿皮症の1種として化膿菌に因るとされているが,又その他生体内外に存する幾多の因子がこれの発症に関與すると考えられている.斯かる因子として,病巣感染,内分泌平衡失調,新陳代謝障碍,ビタミン欠乏症,精神的因子,外用及び内容藥剤等を擧げることが出来るが,そのうち内分泌平衡失調には今日,特に大きな意味が與えられている.痤瘡は通例第2次性徴発現の前後,男女共12~15才に生じ,30才前後に自然に治癒するが,稀に男子新生兒,閉経期婦人に生ずる報告あり,蓋し新生兒期,閉経期は第2次性徴発現期とともに夫々内分泌腺機能の大きく変動する時期で,その際の内分泌平衡失調が痤瘡の1因をなすことが考えられる半面,痤瘡を見ることの少い幼少年期,中年期及老年期は内分泌の安定している時期と云える.内分泌のうちでは特にステロイド系性ホルモンの内分泌が痤瘡の発症に大きく関與することは次の諸知見から窺われる.即ち,宦官症,類宦官症には痤瘡を見ないのが通例であるが,これに男性ホルモンを投與すると発生する.又男性ホルモンが実驗的に表皮の発育,毛嚢口の角化を促進するとともに皮脂分泌を増加させることはそれが痤瘡の発症に意義を持つことを考えさせる.女性ホルモンのエストロゲン(Estrogen)或はプロゲステロン(Porgesteron)はこれを投與すると痤瘡の軽快することあり,逆にその増惡することあり,又は他の疾患に対してこれを投與して痤瘡の発生することがある.更に痤瘡患者には尿中にアンドロゲン(Androgen)又は17ケトステロイド(17-ketosteroid)の過剰に,エストロゲンの寡少に排泄される事実がある.又Lawrence and Werthessenは痤瘡女子患者では尿中排泄量のアンドロゲン/エストロゲンの比が健常者より大きいことを認め,Aron Brunetiereはプロゲステロンにも皮脂腺刺戟作用があることから(Lasher,Haskin),女子ではアンドロゲン+プロゲステロン/エストロゲンの比の大きいことが痤瘡の発生,増惡に原因的意義を持つと述べている.痤瘡の原因としては新陳代謝障碍,ビタミン欠乏症も亦考えられているが,性ホルモンとこれらとの関係としてエストロゲンは肝細胞内でその過剰部分が非活性化されるが,ビタミンB複合体が欠乏し,或は肝障碍が存するとこの非活性化が行われないか或は遲延する.然るにアンドロゲンの非活性化はかゝる状態に於ても行われ,これに依つてアンドロゲンエストロゲン比は大きく変化するといわれている.痤瘡の発症及び症状により直接的に関與するものが皮脂腺の分泌であることは言を俟たないが,毛嚢皮脂腺系は青少年期に比較的小さく,青春期,第2次性徴の発現と共に急速に発達し,生理的脂漏が増強する.その皮脂腺の機能及び容積が性ホルモン投與によつて左右されることは,組織学的に或は生化学的に証明されており,去勢が皮脂腺の萎縮を来し(Ebling,Lasher),その分泌を減少させることも知られている(Emanuel).エストロゲンは毛嚢表皮を刺戟して(Andrews),皮脂腺細胞を増殖させるが,長期のエストロゲン投與は逆に表皮の菲薄化,皮脂腺萎縮を結果すると,更にテストステロンは人,家兎,ラッテの皮脂腺を増大させると云われている.これに対してプロゲステロンには皮脂腺に直接影響せずとする説と,皮脂腺刺戟効果ありとする説とがある.

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