日本皮膚科学会雑誌
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皮膚疾患におけるビタミンB6代謝に就いて
岡本 昭二
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1959 年 69 巻 10 号 p. 1428-

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抄録

化学的に純品のB2群の出来ていなかつた1930年当初は生物学的検定によつてB2群の性状を批判していた.竹内がB2複合体として観察を試みていた1932~37年頃にはB2複合体欠之症の皮膚症状として脱毛,肢端の脂漏性皮膚炎其の他がB2群の何れの因子に基くかを定めることは出来なかつた.しかし1930年当時でも既にChick&Coppingは所謂“ビタミンY”(熱に安定なる水溶性成長促進因子)が鼠の皮膚炎予防因子であろうと述べていた.又1934年に至りP.Gyorgyは当時ReaderがB4称したものも本因子と同一であろうと言い,又Lepkowsky(1936)が濾過因子I,Hogan&Richardson(1936),Booher(1937)が“ビタミンH”と唱えたものも同一であろうと言われる様になつた.一方Kuhn等と共にB2の研究に従事していたPaul Gyorgyは1934年に到りHarrisの授助の下にB2複合体の研究を進め,B2複合体欠乏食にB1を補い飼育するとペラグラ様皮膚炎=Acrodyniaがおこる.これにB2を与えたのでは治らないが,酵母エキスを投与すると治癒することに端を発し,Birch,Gyorgy(1936)の化学的濃縮の研究,1938年に到り5力処の異つた研究室で各々独立した研究でGyorgy,Lepkowsky,Kuhn,Ichiba,Kereszteskyによつて純品の分離が成功し,更にKuhn(1936),Stiller,Keresztesy&Stevens(1939)が本品の合成,構造式の決定をなしたが,1941年Gyorgyはrat acrodyniaが人間に於ける脂漏性皮膚炎に類似することを報告して以来,皮膚科領域に於いてビタミンB6に対する関心がたかまつて来た.PeelはビタミンB6を乳幼児の脂漏性湿疹に用いて無効であつたとし,Jolliffeはこれを尋常性痤瘡に使用し有効であつたと報告している.更にWrightらは脂漏性皮膚炎及び慢性再発生皮膚炎にビタミンB6が有効であつたと言ひ,本邦の小嶋,小堀は慢性湿疹,慢性蕁麻疹,多形滲出性紅斑,皮膚瘙症等に効果的であつたと述べ,又高野等は妊婦痒疹に有効であつたと記述している.松本及び高野,田中もライネル剥脱性紅皮症に,竹内も乳幼児湿疹に有効であつた事を述べている.安田は脂漏部位に発生した痤瘡に有効であつたとし,各種皮膚疾患に現在も尚相当な範囲に臨床的反応が行なわれている.漠然たる臨床的応用は広く行なわれていをにる拘らず,皮膚疾患々者のビタミンB6代謝に関する報告は極めて少く,僅かに小嶋,倉持,竹田の研究があるに過ぎない.然し彼等はビタミンB6の1型であるピリドキシン(以下PINと略す)につき尿中排泄量の定量を行つたのみで,生体内で大部分を占めるB6の他の2型,即ちピリドキサール(以下PALと略す)及びビリドヤサミン(以下PAMと略す)を含めた代謝については追求していない.著者はB6 3型総量を測定しうるAtkinの微生物学的定量法を用いて,正常人及び皮膚疾患々者の尿中B6排泄量及び血清B6値を測定し,又PINによる負荷試験を行い,血清中及び尿中B6値の変動を同時に追求した.更に白鼠を用ひB6欠乏実験を行つてB6代謝に関する基礎的問題を研究したので其の大要を報告したいと思う.

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