日本皮膚科学会雑誌
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白鼠皮脂腺の生理的再生について
杉山 静也
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1959 年 69 巻 12 号 p. 1810-

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抄録

皮脂腺(以下脂腺と略す)はすべての哺乳動物の皮膚に存在する.それはホロクリン腺であり,腺細胞の崩壊によつて排出が行われるものである.脂腺は発生学的には,Marksの所謂胎生的種子層Embryonal stratum germinativumより分化した原始的上皮芽細胞Primary epithelial germ cellsから発達してくる.又原始的上皮芽細胞から分化した毛芽hair germは,脂腺を形成する能力を持つている.脂腺の発達過程はZimmermann(1935)によれば,毛索に輪狁の隆起が発生し,この脂腺の芽がカラー狁に上方乃至は下方に突出する.耳,眼瞼,眉毛部,頬部,頭部に於て斯るカラー狁突出が著明である.毛索に於て毛が分化し始めるやいなや,この小さな脂腺の細胞にすでに脂肪滴が現われ始めるのである.毛管への腺の開口はこれより後に見られるという.一方毛嚢と関係のない独立脂腺の形成については,Hoepke等が報告している.即ち表皮からやゝ巾廣い表皮索として生ずる.独立脂腺の一部は,初期にはやはり毛原基に附属して発生するものがあるが,後に毛原基は遺残的になるか,又は全く退化して脂腺のみ独立するらしい.最初分岐していない單一の桿棒狁の腺が,次第に大きくなり脂腺細胞への分化を示し乍ら,更に複雑な分岐をした複合腺に生長してゆく過程については,今日2つの機構が唱えられている.Brinkmann,Schaffer,Clara等は周邊からの隔壁形成によると考えているが,一方Neubertは,この他に腺頸部の側方に分岐を生じ,その分岐の活発な細胞増殖によつて複雑な胞狁腺に生長するとしている.以上の如く,脂腺の分化発達生長には毛嚢が重要な関聯性を有していることがわかる.ひるがえつて,1個の完成された脂腺はその機能として腺細胞の崩壊,排出を恒常的に行つているものである.この失われた細胞の補充即ち生理的再生の問題がこゝで重要になつてくる.これについては,腺体の周邊部を構成している基底細胞の細胞分裂によることゝ,腺頸部近傍の排出管上皮細胞の細胞分裂によつて生じた細胞が,腺体に滑降して行われることが考えられている.その後これが周邊細胞及び排出管上皮細胞の兩者の細胞分裂によることが観察された.これらは,それら部分の細胞分裂像の把握が基礎になつているのであるが,正常標本下に於て細胞分裂像に遭遇することはごく稀である.私は,白鼠皮膚の組織標本に於て,脂腺の生理的再生乃至増生過程が,從来考えられていたものより異なる型式までも行われていることを知り,且この場合の脂質の変遷について興味ある所見を得たので報告する.

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© 1959 日本皮膚科学会
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