日本皮膚科学会雑誌
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皮膚癌の組織化学的研究
関 建次郎
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1959 年 69 巻 8 号 p. 1093-

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抄録

悪性腫瘍,特に上皮性の夫れとして癌に於ける組織化学的知見は近年組織化学の進歩に依つて著しく増加した観がある.即ち癌細胞に於けるリボ核酸(RNA)及びデスオキシリボ核酸(DNA),又古くから著目されているグリコーゲン其他,癌間質に於ける多糖類の知見のそれである.こゝに特に最近問題とされている腫瘍細胞に於ける核酸RNA,DNA,間質に於ける多糖類に関する従来の知見のうち重要なものを瞥見すると,腫瘍細胞に於ける核酸を組織化学的,且つ定量的に追究したのはCaspersson等に始る.即ち紫外線の吸光度を顕微化学的に測定する方法により,細胞内核酸の定量を行い,各種悪性腫瘍に就ての観察を綜合して,悪性腫瘍細胞の正常組織細胞に対する本質的変化は細胞内の核酸,蛋白質合成系の過度の機能充進状態(調節障碍)にあると結論,皮膚癌の知見をもその中に記載,再生しつゝある正常表皮細胞に比して核内及び細胞質内の何れにも著しく高度の核酸の含有を認めている.次いでLeuchtenberger,G.Klein及びE.Klein等も同様の方法にRi-bonucleaseによる消化法を併用して,Ehrlich腹水腫瘍,DBA腹水淋巴腫細胞に於ては,核当り平均のRNA量は全核酸量の20~25%と著しい増量を示すことを挙げた(正常組織細胞に於ては3~7%).岡本3)はPyro-nin-Methylgreen染色(RNAはPyronin好性,DNAはMethylgreen好性)により, Butter yellow投与時ラッテの肝細胞の所見を発癌迄の各期に於て観察,投与日数に応じて核内RNA,即ち核小体には異型(増大型,空胞型)が多数となることを,又之等と細胞質RNAとの関係等を観察,報告した.同様染色法を用いてLong及びTaylorは人体卵巣及び子宮腫瘍に就て観察し,悪性度の増加と共に,核小体(この場合核内RNA)の多数化,大きさ,形の不規則化,1個の核小体の増大,空胞化等が見られることを述べている.次にLeuchtenberger,G.Klein 及びE.KleinはCasperssonと同様の方法により,Ehrlichの腹水腫瘍,DBA腹水淋巴腫等に就て各個腫瘍細胞核のDNAを測定したか,前者は正常牛肝細胞核の2倍のDNAを含み,後者では正常牛肝細胞核と同じく,比は化学的に定量を行い,各個腫瘍細胞核に就て出した平均値と良く一致し,叉前者の核がTetraploid,後者かDiploidである事実と符合する旨述べている.Baderは5種の腫瘍(Methylcholanthreneに依るラッテ前立腺扁平上皮癌,マウスのCloudman S-91黒色腫,良性特発性乳嘴腫,移植乳癌,特発性乳腺腺癌)に就て夫々の正常組織と比較しつゝFeulgen反応を施した切片にmicrospectrophotometryを行い,腫瘍細胞核のDNA量は良性の乳嘴腫以外は正常に比して増加していること,又各DNA 値は最低のDNA 値,その2倍,その4倍を示していること,但し中間値も時に見られることを述べ,これ等は夫々核のDiploid,Tetraploid,Octaploidに相当し,中間値は分裂前の核内DNAの合成に基くとした.C. Leuchtenberger,R. Leuchtenberger 及びDavisは人体の47の正常組織,29の前癌性或は悪性腫瘍組織に就て,Feulgen反応及びCasperssonと同じく紫外線によるmicrospectrophotometryを行い,悪性腫瘍に於ては各細胞聞にDNA量の差の著しいことを述べたか,これは分裂前に核内でDNAの合成が起る為であり,悪性腫瘍に特有な所見とは考え難いとしている,以上と関連して腫瘍組胞の核学的研究から,牧野等は種族細胞説を立てたか,それに拠れば悪性腫瘍細胞の中でも,比較的正常に分裂する所謂分裂型細胞のみか腫瘍の増殖に重要な意義を持ち,その染色体構成は正常体細胞の夫れとは明に異り,夫々に一定した染色体の形態及び数を備えていることを述べた(吉田肉腫では

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© 1959 日本皮膚科学会
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