日本皮膚科学会雑誌
Online ISSN : 1346-8146
Print ISSN : 0021-499X
ISSN-L : 0021-499X
電気刺戟による皮膚瘙の研究
手束 尚
著者情報
ジャーナル 認証あり

1959 年 69 巻 9 号 p. 1392-

詳細
抄録

瘙は皮膚科領域に於ては非常に重要な症状であり,又患者を最も苦しめるものである.従来瘙に関する研究は諸家によつてすすめられ,特に痒覚に関しては諸学説が唱えられている.即ちRothman,Bishop,山碕等は痛神経学説を唱え,その要点は痛神経が弱く刺激された時に痒感として感ずると言い, Bishopは擽感(tickling)は触終末に於ける又痒感は痛終末に於ける或る種の刺激の結果であろうと云つている.Rothmanは擽感,痒感,原感性疼痛は恐らく同一の神経線維の機能によつて生じ,痒感は原感性疼痛にまで至らない程度に弱く刺激された時に生ずるものであると唱えている.自律神経学説に就てはJacquetは痒覚は交感神経の興奮によりPulayは自律神経の失調により起ると云い,Kroner及びKoenig-steinは自律神経に属する知覚神経が痒のimpulseを中樞に傅えるといつている.又次に折仲説と情緒説でWinkler等は痒感は痛神経によるものであるが血管反射と共に考慮すべきであると云つている.伊藤は視床に特有な興奮を假定するならば特殊知覚の法則から要請される独特の知覚器並びに神経にこだわる必要なく,むずがゆさの要素は痒覚と同じものであることが出来るし又痒神経であろうと自律神経であろうと,弱い持続する刺激があつて掻把反射を惹起する様な條件の時の1種の衝動であろうと唱えている.其の他Lewisは痒感は痛神経線維ではなく特別な型の神経線維又は感覚傅導線維によつて傅導されるであろうと云つている.痒感については以上の如く種々の学説があつて,未だその定説がないのである.さて痛覚についてはその闘値測定には既にMartin,Macht,Bollinger等により感意電流を用いて行われ,又Hardyは幅射熱による疼痛計を考案しHarry Sigelは短形電流によつて闘値測定を行つている.然しながら痒感に関してはその感度を表わす方法は山碕が起痒物質の研究から「表皮十字切法」により瘙闘値の測定法を論じている以外,未だその適切なる方法を知らないのである.私は伊藤の発案による電気瘙計を用いて瘙闇値を測定し人体に於て種々の実験を行い興味ある結果を得たので述べ併せて痒感について述べんとする.

著者関連情報
© 1959 日本皮膚科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top