日本皮膚科学会雑誌
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瘙に関する研究 瘙刺激の受容器について
鈴木 達夫
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1960 年 70 巻 1 号 p. 120-

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抄録

瘙は皮膚疼痛と密接な関係を有し,その発生には痛覚の存在を必要とし,且つ以覚痛外の皮膚感覚とは無関係であること,そして痛閾以下の或持続的刺激で痒感が起り得ることは現今殆んど定説と看做される.このことは近年われわれの教室に於ける諸業績を見ても明らかである.しからば,この起痒刺激の受容される場として主役を演ずる所は皮膚の表皮と真皮のいずれであり,またそのいずれの神経であるかはおのずから闡明さるべき重要問題となつてくる.既に古くTorokやKennedyは表皮の欠損せる皮膚局所には瘙は起らず,表皮再生とともにそれが再発してくることを臨床的に認め,更にTorokは実験的に表皮欠損面にJuckpulver(Mucuna pruiensの莢の棘)を作用させても痒感の起らないことや,痒みの強い角化性扁平苔癬の表面をメスまたは電気焼灼により除去すると,表皮の再生までは瘙を感じないことを認め,Winklerも発疱膏による水疱底にJuckpulverを作用させても,また音叉による物理的振動刺激を與えても痒感の生じなかつたことを認め,兩氏ともに瘙発生には表皮の健存することの必要であることを認めたようである.しかし上述の諸家の観察には正確さを欠き,殊にその表皮剥離の種類及び程度とその部の痒覚との関係については不明であり,またその観察に用いられた実験的起痒術式が適当且つ確実であるとは云えない.こゝに於いて著者は1)種々の表皮欠損乃至剥離面上に於いて,予かじめその組織像をよく承知の上で,有力な起痒物質溶液を滴下する方法を用いて該部の痒覚の有無及び痒閾を檢し,2)表皮剥離操作の臨床的瘙への影響を観察し,3)瘙性水疱性疾患の水疱内容の交換瘙試験を行なつて水疱完成時の止痒理由を明らかにし,4)痒感発生に問題となると考えられる表,真皮結合部(基底膜)の真皮側から表皮側へ向つての通過性を実驗組織学的に檢し,痒刺激受容器の問題に関して1見解を有するに至つたのでこゝにその成績を記載する次第である.

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