日本皮膚科学会雑誌
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皮膚カンジダ症の臨牀的及び菌学的研究
黒田 和夫
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1960 年 70 巻 11 号 p. 1067-

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抄録

カンジダ症(Candidiasis,Candidamykose,Candidose)とはCandida属中のCandida albicansを主な病源菌とする疾患の総稱で,皮膚,粘膜,内臓等に病変を生じ,稀に重篤な全身感染を起す,近時抗生物質投與による本症の誘発ならびに憎惡が問題とされて以来各臨床領域の関心を集めるに至つたが,その由来は甚だ古く,既に18世紀末には一独立疾患として鵞口瘡Soorの名が用いられたという.かかる口腔粘膜の罹患についで皮膚における本症も注目され,皮膚鵞口瘡Hautsoorの名稱が用いられた.Candida albicansは1839年始めてLangenbeckによつてチフス患者の剖檢時に腸管内で発見され,この菌はのちRobin(1853)によつてOidium albicansと稱された,以来本菌にたいしてSyringospora,Monilia,Endomyces,Myceloblastanon等の属名が與えられ,このうちわが國に於いてはMyceloblastanon,欧米に於いてはMoniliaの名稱が廣く医学界に通用した.これらのうち無子嚢酵母の1群にたいしてCandidaなる一属を新設したのがBerkhout(1923)で,現在に於いてはこの名稱が広く一般に用いられている.カンジダ症はわが國に於いては太田の提案によつて酵母菌症(Blastomykose)に屬せしめられ,この名稱で呼ばれることがb\々であつた.しかしこのうちにはCandida以外の酵母様菌による疾患も含まれた.特にCandidaによる疾患を指す病名としては鵞口瘡菌症(Soormykose),モニリア症(Moniliasis),最近ではカンジダ症(Candidiasis)等の名稱が混用され,用語上の混亂を免れなかつた.高橋は酵母様菌(yeast like funi)による疾患を分芽菌症と総稱し,このうちCandidaに屬する菌,特にCandida albicansによるものをカンジダ症とすることを提唱したが,以来次第にこの名稱が廣まつてきた.本症は既に述べた如く,各科領域にみられるので,皮膚カンジダ症,肺カンジダ症あるいは膣カンジダ症の如く,罹患部位を冠して呼ばれることが多い.わが國に於ける皮膚カンジダ症は大正9年條本による第1例以来,多数の報告があるが,そのうち高橋(信),中村,樋口の論述が詳細である.篠本の例は臨床的に前頭,前額,前頸部限局した膿痂疹性濕疹類似の病像を示した男兒であり,高橋(信)は乳兒寄生性紅斑と指趾間糜爛の2病型を報じ,中村はこれに爪囲炎を追加し,更に上口唇に限局性の紅色糜爛を有する男兒の1例を観察して,酵母菌性皮膚糜爛症として記載した.樋口は自驗の51例を乳兒寄生性紅斑,間擦疹,指趾間糜爛,分芽菌性肛囲濕疹,乳房分芽菌症,口角糜爛症,頑癬状分芽菌症,水治または濕布による分芽菌症および分芽菌性爪甲炎に分つた.高橋・黒田は浅在性皮膚カンジダ症を間擦疹型,播種型,爪並びに爪囲型の3型に大別し得るとしたが一般に本症の臨床像は多様であり,かつ症例数が比較的僅少なため,その特徴を正しく把握することは必ずしも容易ではない.わが國に於いて皮膚カンジダ症から分離された菌は始め鵞口瘡菌(篠本)と呼ばれたが,太田は菌学的研究の結果,その典型菌にMyceloblastanon cutaneum Otaの新名を與え,なおその類似菌としてMycelobla stanon gifuense Taniguchiをも記載した.その後本症研究者の発表した菌名としては上記Myceloblastanon cutaneumのほか,Myceloblastanon cutaneum var.Takahashi(高橋信),Cryptococcus(中村,樋口),Candida albicans(高橋・黒田)等が擧げられる.中村は分離した14株中12株を,糖醗酵に僅かの異同を認めたが,Myceloblastanon cutaneumと同定し,他の2株は紅色の集落を作る1種のCryptococcusで,いずれも病原性を有するとした,樋口は57株を分離して,病原性を有する本型菌と非病原性の異型菌とに分ち,更に前

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