日本皮膚科学会雑誌
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皮膚疾患に於ける血清ヒアルロニダーゼ抑制物質に関する研究
野口 登志子
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1961 年 71 巻 10 号 p. 1073-

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抄録

1928年,Duran-Reynals次いでMcClean等により睾丸抽出液中に組織の透過性を高める作用のある物質の存在する事が証明された.この物質即ち拡散因子(spreading factor)はその後睾丸のみならず種々の細菌及び蛇毒中にも見出されてきたが,一方別に1987年Meyar等は肺炎双球菌がヒアルロニダーゼを有する事を見出し,更に1940年Clain及びDuthieが前記拡散因子とヒアルロニダーゼとが同一物質であると発表するに至つて,所謂拡散現象の物理的,化学的変化が明らかになり,又細菌感染の機序の解明にも一進歩をもたらした.皮膚或いはその他の結合組織の基質の重要な構成成分であるヒアルロン酸を解重合する酵素としてヒアルダーゼが皮膚病理学上重要な意義を持つものであることは云うまでもないが,一方それに対して抑制的に作用するものとして生体に於いてはそれぞれの細菌或いは睾丸組織等のヒアルロニダーゼに特異的な抗体が産生される事が知られており,更に哺乳動物血清,血漿中には種々なヒアルロニダーゼを非特異的に抑制する因子の存在する事も証明されている.この非特異的抑制物質の本質については,或いは之を一種の酵素とし(Haas),或いは多糖類とし(Hechter等),或いは蛋白質(Dorfmann等)としているが,未だ定説なく,その意義についても未だ明らかであるとは云えない.然しながら之が種々疾患に際し変動する点については種々検討が加えられており,即ち各種炎症性疾患(Glick等,榊原,佐野),惡性腫瘍(Hakanson等,尾崎,佐野),リウマチ(Good等,古市),又種々の肝,腎疾患(Glick等)等に際しての本物質の増加が証明されている.一方皮膚科領域に於いては,Grais及びGlick(1948)は,比粘法(viscosimetry)により,諸種皮膚疾患につきヒアルロニダーゼ抑制物質を測定し特に急性エリテマトーデス,天疱瘡,結節性紅斑,膿痂疹,丹毒等若干の疾患で著明に増加すると述べ,又本邦に於いては野口(義)他はMucin-clot-prevention testに依つて7例の皮膚疾患患者中,滲出性変化を伴なつたエリテマトーデス,皮膚筋炎に増加を認め,膿痂疹,エリテマトーデス,腫瘍では増加を認めなかつたと報じて居り,又佐野(栄)等も同様の方法で諸種皮膚疾患について測定した成績を報告している.然しながら之等の成績は必ずしも一致せず,皮膚疾患に於けるヒアルロニダーゼ抑制物質の意義の解明の為には更に広汎に亘つて,詳細に検討する必要があると考えられる.ここに於いて著者は皮膚疾患全般に亘りなるべく多数症例について血清ヒアルロニダーゼ抑制物質を測定し,それの変動と各疾患との,或いはその病変の程度との関連を明らかにする事により本物質の意義の解明に寄与する事あらんと志した次第である.

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© 1961 日本皮膚科学会
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