日本皮膚科学会雑誌
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白癬菌のIn Vitro Hair Cultureについて
中島 権一
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1962 年 72 巻 11 号 p. 868-

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抄録

白癬の起因菌としてはT. rubrumとT. mentagrophytesが多く,これらの病原菌はその臨床的症状ならびに治療にたいする抵抗性にも差異が認められるので,その原因菌を分離同定することは重要である.この両菌の鑑別に関しては,形態学的にT. rubrumは並列の側壁を持つた腸詰状の大分生子とその形が細長い小分生子を作り,Sabouraud dextrose agarに濃い紅色の色素を産生する.一方T. mentagrophytesは棍棒状の大分生子と円形の小分生子を作り,Sabouraud dextrose agarで茶褐色の色素を産生するといわれているが,しかしこの両者の培養上の変異の範囲は非常に広く,前述の相違点だけでは決定し難い場合がしばしば生ずる.すなわち紅色の色素を産生しないT. rubrum,また紅色の色素を産生するT. metagrophytes,棍棒状の大分生子を作るT. rubrumなども生じ,とくに大分生子を欠く際にはT. rubrumとT. mentagropphytesとを確実に鑑別することはかなり困難である.この両者を鑑別する方法として,Edgecombeはpotato dextrose agarを用い,Benhamはheart infusion agarで,Bocobo and Benhamは,corn meal dextrose agarを考案したが,完全な分類の手段としてはやはり少数の例外的な菌株が存在する.白癬菌は哺乳動物の皮膚,爪,髪に寄生する.これらの組織の主な蛋白成分がケラチンであるので,白癬菌はケラチンを分解するのではないかと古くから推察され,このことに関する多くの研究もなされている.すなわち,DanielsはM. canisが頭髪を分解するのを証明し,Davidson and Gregoryは白癬菌による頭髪の穿孔を認め,さらにPageのM. gypseumによる角粉,羊毛,人体の爪の分解および頭髪の穿孔実験,またKarling,Vanbreuseghem,Ajelloによる頭髪を利用した土壊中病原糸状菌の分離実験がある.最近わが国では岡田は糸状菌のケラチンの分解能と分解アミノ酸について研究した.1957年Ajello and GeorgはT. rubrumかT. mentagrophytesか両者のどちらに属するか判らない菌株を同定するためにケラチン分解能を応用し,頭髪の穿孔試験を基準とする鑑別法を提唱した.われわれは彼らの考案したin vitro hair cultureを用いて教室保存の21種170株の白癬菌について実験し,頭髪穿孔に関与する因子を検討するとともにどの菌種がケラチン分解能を有するか,また果して本試験がAjelloらの主張するごとくT. rubrumとT. mentagrophytesとの鑑別に実際に有用であるか,さらにまたcorn meal dextrose agarによる鑑別法より優れているかを検討してみた.

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© 1962 日本皮膚科学会
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