日本皮膚科学会雑誌
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エリテマトーデスの真皮上層小血管の電子顕微鏡的研究
大橋 勝
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1968 年 78 巻 1 号 p. 1-

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抄録

エリテマトーデスの研究は,LE細胞の発見以来,その臨床的な疾患特異性のため血清学を中心として多くの仕事が行なわれ,自己の細胞核への抗体形成という自己免疫機構の存在も考えられるに至つている.しかしながら,もつとも古くから本疾患の特徴として知られている皮膚所見も本症の発見以来詳細をきわめ,種々の亜型も又記載されて,統一的理解をさまたげるほどである.本症の原発疹と呼ばれている皮疹は米粒大以上の滲出性紅斑でありこの紅斑の融合により形成される局面が顔面に認められるとき,よく知られたErythema perstans facieとなる.即ち原発疹の肉眼的所見では滲出性機転の強い血管拡張として理解される訳である.この際の組織学的所見では最も早期にかつ高率に見られるのは真皮上層の毛細血管の拡張と腫脹であり,この変化は「専ら滲出性退行性病変であつて,殆んど増殖性変化を欠如せる点」が注目されている.かかる真皮上層の病変がより深い血管病変に由来するものではなく,むしろ真皮中,下層の変化は軽度である.真皮上層の小血管の器質的変化を記載した他の方法による研究も数多く,a)トルイジンブルーによるメタクロマジー,PAS染色 b)皮膚顕微鏡による観察,c)アルカリフォスファターゼ染色による毛細血管像等が報告されている.トルイジンブルー,PAS染色ではFibri-noid変性が注目されて以来,Fibrinoidは皮膚では見られることは少ないが,真皮上層の毛細管壁にはトルイジンブルーによるメタクロマジー陽性,PAS陽性物質の沈着が認められ,これは中,下層では少ないことが報告されている.b)では毛細管の数が減少し,管腔は拡張,血流は遅延し,この変化は高度の皮疹のある部では強く,軽快すると軽くなるがこれらの変化がまつたく正常になることはまれで一部に病変をのこしている.増殖性の変化はほとんど認められていない.この皮膚顕微鏡による所見が次にのべるアルカリフォスファターゼ染色による毛細管像とよく一致することも記載されている.c)では毛細管の不規則な走行と不規則な染色性が特微であり,この変化は極だつており,他の疾患とは明らかに区別出来る.しかもこの方法の利点は,他の方法によるよりもその病変をあざやかに見ることが出来ることである.以上のごとくエリテマトーデスの原発疹である滲出性紅斑は組織学的レベルでの研究では真皮上層小血管のきわだつた滲出性退行性変化として認められるのである.この滲出性紅斑とは別にエリテマトーデスの皮膚所見のうちで特徴を有しているのは円板状皮疹で皮膚科学的立場からではむしろエリテマトーデスの特徴と云えるものである.この皮疹は慢性円板状エリテマトーデスに出現するのみでなく,急性又は亜急性エリテマトーデスで見られる播種状の滲出性紅斑が病状の寛解と共に播種状円板皮疹の形態をとつてくることも又よく知られている.かかる際の組織学的所見では,真皮上層の小血管は滲出性紅斑部と同様に拡張及び溢血の所見が認められる.即ち周囲に強く認められる細胞浸潤を除くとその血管像は滲出性紅斑部のそれと同一と考えられるのである.このことは他の方法,皮膚顕微鏡及びアルカリフォスファターゼ染色による血管像でも認められて滲出性紅斑部と円板状皮疹部との質的差異はないものと考えられる.上記のような滲出性紅斑と円板状皮疹とを両極として展開される皮膚病変とLE細胞を中心として理解され

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