日本皮膚科学会雑誌
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乾癬表皮における脂質生合成
大城戸 宗男松尾 聿朗薄 喜代子籏野 倫
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1969 年 79 巻 12 号 p. 987-

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抄録

1932年Kooymanが正常表皮において,表皮細胞が角化するにつれ,リン脂質は減少し,更にコレステロールがエステル化されるにつれ,遊離脂肪酸も減少すると発表して以来,表皮細胞内における脂質の代謝が一躍注目をあびた.しかも異常角化を示す疾患のうち代表的な乾癬表皮において,Unnaらが多量のCholesterinpalmitateの蓄積を観察した事実と併わせ,表皮細胞の代謝即ち角化過程における脂質の役割が正常または異常角化を問わず,多くの研究者により追求されたが,実験法の難易さがあつて,その細部に関して不明のままであつた.しかるに1950年Rothmanの乾癬無疹部におけるコレステロールのエステル化機能の低下という重大発見を契機として,再検討の機運が訪れたが,以後この問題のみに関しても未だに定説を得ていない.この理由として,乾癬皮膚に限らず,広く正常皮膚を含めての脂質の研究の際,その実験方法に確立したものがないためと考えられる.先ず材料に関して,入手しやすく且つ使用に便利な鱗屑中の脂質,即ち皮表脂質surface lipid filmといわれるものは表皮細胞由来の脂質と脂腺由来の脂質が混り合い,更にそれらが皮表において変性したものであるのは衆知の事実である.そのため,この皮表脂質の分析によつて表皮内の脂質代謝を云々するのは危険である.一方表皮内での代謝を直接知るために,表皮のみを]R離する方法も数多く考案されているが,脂質の性質上,前述の皮表脂質の混入を避けるのはほぼ不可能といえる.それに対して分析法では過去のある時期迄,材料を多量必要としたため,その入手に制限のあるヒト皮膚に関しての知見は必ずしも多くなかつたが,近年thin layer chromatographyを初め,gas liquid chromatography等微量な材料ですむ実験方法が普及され出し,そのため却つて検体における汚染がクローズアップされたのは皮肉である.我々は以上の実験法に伴う難点を考慮に入れ,更にマウス表皮においてはtritium acetateを用いた脂質合成能がincubateの時間にほぼ平行して上昇する事実にも着眼し,乾癬表皮における脂質の代謝を生合成の面より窺わんとした.本論文では第1報として乾癬の発疹部および無疹部の表皮における各脂質内へのtritium acetateの取り込みを報告する.

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© 1969 日本皮膚科学会
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