日本皮膚科学会雑誌
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天疱瘡患者血清による実験天疱瘡の作成
折原 俊夫
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1978 年 88 巻 9 号 p. 561-

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抄録

天疱瘡患者血清中に証明される天疱瘡抗体(抗表皮細胞間抗体)の,同症病変の成立ちに対する役割を検討する目的で,天疱瘡患者血清をモルモットに皮下ないし皮内注射,および静脈注射し,表皮細胞間へのヒト IgG 沈着を蛍光抗体法にて経時的に観察するとともに,表皮におこる変化を光学顕微鏡ならびに電子顕微鏡にて観察し,同時に免疫電子顕微鏡法を用いてヒト lgG 沈着の超微構造上の局在を調べた.その結果,以下のことが判明した. 1)患者血清を3ないし3.5時間間隔で3回反復,皮下ないし皮内に注射すると,表皮細胞間にヒト lgG の沈着がおこるが,沈着陽性率は初回注射から30時間以上経過した時点で採取した皮膚では,それ以前に採取した皮膚に対して低い傾向がみられた. 2)静脈注射1回でも表皮細胞間にヒト lgG の沈着がおこり得たが,頻回の局所注射したものよりも成績が良くなかった. 3)局所注射により表皮細胞間に lgG 沈着をおこした血清は,6患者より時をかえて採取した13血清中の8血清で,さらにそのうち4血清では lgG 沈着と同時に,または沈着した lgG が消失したあとと考えられる皮膚に,基底細胞層直上の棘融解性裂隙形成を認め,うち1部位に定型的鯨融解性水疱の形成をみた.他方,lgG 沈着が証明されない患者血清注射部位で,棘融解性変化を観察できたのは,残り5血清のうち僅かに1血清で,また正常人2例から得た2血清では lgG 沈着も棘融解もみられなかった. 4)電子顕微鏡による観察の結果,錬融解による水疱形成部も裂隙形成部もほぼ同様の所見を呈した.特徴的所見として,それらの底部で墓石状配列を呈する基底細胞は, basal lamina とは half-desmosomes による結合を保ちつつも,隣接する基底細胞とは desmosomes による結合をほとんど欠き,それとともに細胞膜に接して解離したdesmosome の片側と思われる attachment plaque 様構造が散見され,細胞膜の部分的変形もみられた.また細聊質内でぱ tonofilaments 凝集が軽度にみられた.一方疎融解性変化の周辺部では細胞間隙の拡大とともに desmosomes の減少,細胞膜の不明瞭化, tonofilaments の軽度凝集などの所見が認められた.また同時にdesmosome の解離もみられたが,周辺部の変化については従来接触性皮膚炎浮腫部について報告されているものと本質的差異を認め得なかった. 5)免疫電子顕微鏡法によって認めたヒト lgG の沈着は,基底層を含めた表皮細胞間,特に細胞膜表面に,また desmosome 部では intermediate den'Se layer に一致して観察された. 6)以上の免疫電子顕微鏡法を含む電子顕微鏡的研究の結果は,天疱瘡病変部の所見と類似する点が多かった. これらのことより,天疱瘡は一種の細胞問浮腫で始まり,天疱瘡抗体はある種の条件下で表皮細胞間を通過し,その細胞膜表面に沈着して細胞全体に影響を与えることにより desmosomes の解離を促進し,その結果棘融解が惹起されると推定される.

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