1982 年 92 巻 13 号 p. 1415-
キチマダニ(Haemaphysalis flova)雌成虫による人体咬着の1例を報告した.本症例は,本邦におけるキチマダニによる人体咬着の臨床報告例としては,最初のものである.同虫は,虫体ごと切除した皮膚片より,24時間後に自発的に離脱した.このことは,キチマダニが,野兎病媒介動物として,人に咬着し,吸血しうること,さらに,野兎病菌を野兎から人へ機械的に伝播する可能性をも示唆するものである.本症例では,左頚部表在性リンパ節腫脹が認められたが,野兎病血清凝集反応は陰性で,予後は良好であった. 本邦における過去のマダニ類人体刺咬例を概観し,モれらと本症例とを比較するとともに,キチマダニ人体咬着による病理組織学的所見,とくに,マダニ類人体刺咬による野兎病伝播の可能性,および,マダニ類人体刺咬例の診療上,虫体同定上の留意点について若干の考察を加えた.