日本皮膚科学会雑誌
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尋常性乾癬病変部表皮内におけるCarcinoembryonic antigen(CEA)について
井上 成史古谷 達孝
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1989 年 99 巻 7 号 p. 801-

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抄録

血中CEA値の上昇を認め,同時に病変部表皮内にもCEAの局在を証明し得,しかも皮疹軽快に伴い血中CEA値が低下した乾癬性紅皮症の2例を経験したことからCEAと乾癬との関連をみる目的で,無作為に選んだ尋常性乾癬患者20例,対照として健常人6例,紅皮症4例(原疾患:湿疹2例,扁平苔癬1例,薬疹1例),慢性湿疹6例について,未治療病変部表皮内におけるCEAの局在を免疫組織学的に検索した.乾癬7例については生検時に血中CEA値をも測定した.病変部表皮内におけるCEAは乾癬20例中10例で陽性,対照の健常人,紅皮症及び慢性湿疹では全例陰性であった.乾癬病変部におけるCEA陽性部位は,acanthosisとparakeratosisの両者がともに顕著な部位のparakeratosis直下の棘細胞間,細胞膜部及び棘細胞の細胞質の一部にのみ限局していた.以上より乾癬表皮内におけるCEAは,乾癬特有の表皮細胞の増殖亢進状態において,特に表皮細胞の分化異常すなわち角化障害が顕著な部位のみに一致して出現した免疫組織学的一表現と考えられた.乾癬患者7例の血中CEA値は,病変部内CEA局在の有無に拘らず全例正常範囲内で,既報の血中CEA上昇がみられた乾癬性紅皮症2例とは結果が異なった.この点については個々の症例ごとに病変の広狭,病勢の程度など勘案し,再検討する必要があると思われた.乾癬表皮内のCEA濃度の上昇により血中CEAが表皮内へ波及,沈着したものとは考え難く,表皮内CEAは乾癬において高度の角化障害に伴い,parakeratosis直下の棘細胞により産生されたもの,あるいは発汗異常によりエクリン汗中のCEAが表皮内に浸透し,前記部位に沈着したものと考えられた.著者らは前者によると考えているが,今後この点について検索したい.

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© 1989 日本皮膚科学会
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