日本皮膚科学会雑誌
Online ISSN : 1346-8146
Print ISSN : 0021-499X
ISSN-L : 0021-499X
母斑細胞母斑の初代培養―神経線維腫の培養所見と比較して―
岩井 雅彦
著者情報
ジャーナル 認証あり

1989 年 99 巻 8 号 p. 891-

詳細
抄録

40症例42個の母斑細胞母斑を培養し,位相差顕微鏡所見,S-100タンパク染色所見を検討するとともに,微速度映画撮影により,動形態的検索も行なった.また神経線維腫の培養所見との比較検討も行なった.1)初代培養所見:培養3日目から7日目頃に,マクロファージ様ないし樹枝状突起をもつ細胞の遊出がみられ,S-100タンパク染色でこれらの細胞のほとんどが陽性所見を呈したが,個々の細胞により染色性に差がみられた.微速度映画撮影所見では,マクロファージ様形態の細胞と樹枝状突起をもつ細胞には相互に移行がみられ同一の細胞と考えた.またこれらの細胞は,神経線維腫の培養におけるSchwann細胞系細胞の動形態と酷似していて,運動性が活発で,dish底面との付着性に乏しく,ときどき足突起を出し入れする所見を呈した.以上の所見から,このマクロファージ様ないし樹枝状突起をもつ細胞のほとんどが母斑細胞と考えられた.2)長期間分離培養の試み:試みた5例中,1例だけが163日間,5回まで培養可能であったが,母斑細胞の数は徐々に減少し,良好な増殖状態はみられなかった.神経線維腫の培養に比べ継代培養は非常に困難であった.3)母斑細胞母斑42個の培養の総括:31個(73%)に母斑細胞の遊出がみられ,①組織型では真皮内型で脂肪変性を有するもの,②部位では顔面,③年齢では高年齢のものに遊出しやすい傾向がみられた.すなわち組織学的に,c型の成分の多い母斑細胞母斑ほど遊出しやすいと考えられた.4)発生母地として共通の神経櫛起源性である神経線維腫のSchwann細胞系細胞とc型を主体とする母斑細胞は,組織培養において形態学的所見,S-100タンパク染色所見とも酷似していることが判明した.

著者関連情報
© 1989 日本皮膚科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top