抄録
乳び胸水の貯留を認めた18歳齢の雑種猫における超音波検査で,右心圧増大の所見,心室中隔膜性部付近でモザイク信号を認めた。心室中隔欠損症(VSD)由来の肺高血圧症(PH)とそれに伴う乳び胸を疑い,一般的な右心不全の内科的治療に加え,ベラプロストナトリウム(BPS)の投薬を行った。その結果,第57病日までに乳び液貯留は消失,PHを示唆する各検査結果にも大きな改善を認めた。しかし,その後の精査でモザイク血流はVSDによるものではなく,大動脈弁閉鎖不全症が示唆された。各種検査および臨床症状の改善から,本症例がPHであったことが推察される。PHの原因疾患に対する確定診断は行えていないが,本症例がPHを誘発させる肺血管疾患を有していたことは十分に考えられる。本症例の治療経過からBPSがPH由来の右心不全に対する治療薬として有用性であること,特発性乳び胸の原因に何らかの肺血管疾患に由来するPHが含まれる可能性があることが示唆された。