抄録
寒冷地の灰色低地土水田にササニシキ,多湿黒ボク土水田にトヨニシキを数年間継続して栽培した試験において,水稲のNaの吸収と登熱との関係に注目して解析した.1) 土壌,品種が違うにもかかわらず,水稲の吸収したNaとしいな重との間に高い負の相関が認められた.ササニシキにおいては,玄米重としいな重との間に負の相関があり,しいな重が玄米重の制限因子であった.2) 生育初期におけるNa吸収量としいな重との相関が認められ,この時点でのNaの吸収は,冷水灌がいによるKの吸収抑制と苗のNaに関する栄養生理的性質によるものと考えられた.3) 出穂 35〜45 日前のKの吸収抑制がNaの吸収を促進し,Naの吸収増加が,しいな重の減少,登熱歩合の向上に寄与したものと推察した.4) 両品種ともに,Na吸収濃度はしいな重,屑米重と負,登熱歩合と正の相関を示したが,K吸収濃度はこれと相反する傾向を示した.5) 以上の結果,本試験においては,NaはKの代替として吸収されるが,水稲体内では独自の作用を営んでいることが推論された.