日本土壌肥料学雑誌
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Print ISSN : 0029-0610
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水稲への放射性セシウム移行に対する土壌化学性の違いに応じたリスク管理のための統計モデル I.統計モデルの選択
矢ヶ崎 泰海 齋藤 隆新妻 和敏佐藤 睦人太田 健
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2019 年 90 巻 2 号 p. 123-130

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抄録

東京電力福島第一原子力発電所事故により飛散した放射性セシウム(以下,RCs)の土壌から水稲への移行の抑制については,カリウムの施肥により土壌の交換性カリウム含量(以下,交換性カリ含量)を高める対策が広く講じられてきた.水稲へのRCs移行は交換性カリ含量が低くなると高まりやすく,土壌によりその程度が大きく異なる可能性がある.土壌化学性の違いに応じたRCs移行リスクを評価するため,既往の研究に基づき交換性137Csおよび交換性カリ含量を説明変数として玄米中137Cs濃度を推定する統計モデルについて検討した.福島県内の水田において2012~15年に延べ約290地点で実施した農林水産省による土壌および玄米の調査データと,移行リスクが高いことが既知の現地試験ほ場2地点の試験データをあわせて解析した.その結果,両変数の対数値を説明変数とするモデルが最も観測値との適合が良く,玄米中137Cs濃度対数値の全変動の68%を説明した(p<0.001, n=309).このモデルの回帰式の解釈から,交換性カリ含量が一定の場合,交換性137Cs濃度の増加に伴い玄米中137Cs濃度が増加することが示された.また,交換性137Cs濃度は玄米中137Cs濃度に対して交換性カリ含量とほぼ同等の影響力をもつと考えられた.モデル推定値と観測値の分布の傾向は概ね一致したことから,モデルのリスク管理への応用が期待される.

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© 2019 一般社団法人日本土壌肥料学会
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