日本土壌肥料学雑誌
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有機水稲ダイズ輪作試験における生産性と土壌肥沃度の維持
新良 力也 三浦 重典関口 哲生
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2021 年 92 巻 1 号 p. 19-30

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抄録

環境に調和させた食糧生産となり得る有機農業の可能性を論じる基礎情報を得ることを目的に,水稲–水稲–ダイズの輪作を有機栽培で2009年から茨城県内で10年間実施し,収量と土壌肥沃度の推移を解析した.

投入資材として,コメヌカ,オカラ,コムギ子実,ダイズ子実などを活用して,水稲1作あたりの窒素・リン酸投入量を最大投入区で7.4±0.20 g m−2,8.6±1.93 g m−2とすることができた.玄米収量は,有機栽培開始直後は低かったが,2012年と2013年には冬季湛水を実施すると530, 580 g m−2に達し,その後は350~490 g m−2で推移した.もみわら比と登熟歩合が既報の慣行栽培の値より低く,玄米のタンパク質含有率は良食味のための目標値より概ね低くなった.ダイズ栽培ではヘアリーベッチを緑肥として活用し,その整粒子実収量が190~270 g m−2の範囲でほぼ安定した.土壌の全炭素含有量は有機栽培期間中,全窒素含有量は開始後5年間程度増大した後に,概ね一定値で推移し,冬季湛水直後に高くなる場合が見られた.可給態窒素量は,2012年秋まで増大傾向を示した後,ほぼ一定に推移した.可給態リン酸量については,本試験開始時の低い値を改善できなかった.

以上の結果から,有機農業による水稲ダイズ輪作において,慣行栽培並みの窒素投入量で収量をほぼ確保し窒素肥沃度を維持できる可能性があり,本事例においてさらなる水稲増収のためには,慣行の穂肥から実肥に相当する時期の窒素供給を増やすことが重要と論じた.

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© 2021 一般社団法人日本土壌肥料学会
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