分解作用を強く受けた泥炭物質を黒泥や腐朽質泥炭とよぶ.泥炭物質の分解度の判別指標には,灰分含量が国際的に広く用いられている.しかしながら,日本の泥炭地は,沖積堆積物または火山放出物の供給を受けやすいという特徴がある.そのため,灰分含量は有機物の分解度に関わらない湿地系外から混入した無機物の影響を反映している場合があり,国内における泥炭物質の分解度判別には不十分な可能性がある.そこで本稿では,国内に分布する泥炭物質の特徴および生成過程を反映した分類法の構築を目的とし,国内外における泥炭物質の分解度に関わる用語の定義および基準を整理した.さらに,北海道の沖積低地に分布する泥炭物質について繊維含量と灰分含量を変数としたクラスター分析を行い,算出された各クラスターの判別基準を決定木学習により抽出することで,灰分含量の高い泥炭物質についての新分類を以下のように提案した.すなわち,繊維質泥炭物質(無機堆積質):繊維含量≧25 vol%かつ灰分含量≧25 wt%,普通繊維質泥炭物質:繊維含量≧25 vol%かつ灰分含量<25 wt%,非繊維質泥炭物質(無機堆積質):繊維含量<25 vol%かつ灰分含量≧45wt%,普通非繊維質泥炭物質:繊維含量<25 vol%かつ灰分含量<45 wt%,の4区分を設けた.これにより,無機堆積物が供給されやすい泥炭地環境を考慮した泥炭物質の判別が可能と考えられる.