応用生態工学
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原著論文
水田環境におけるバッタ目昆虫の分布と個体数を決定する環境要因~佐渡島におけるトキの採餌環境の管理にむけて
吉尾 政信加藤 倫之宮下 直
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2009 年 12 巻 2 号 p. 99-107

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抄録

新潟県佐渡市では,2008年秋にトキの野生復帰に向けた試験的放鳥が行われた.放鳥後のトキ個体群が存続するためには採餌環境の整備や創出が不可欠であり,水田生態系における餌生物の分布や現存量を評価することが緊急の課題となっている.本研究では佐渡市小佐渡地区の水田生態系において,トキの主要な餌生物の1グループであるバッタ目昆虫群集の調査を行い,コバネイナゴ,オンブバッタ,ホシササキリ,クサキリ,エンマコオロギの個体数や分布を制限する環境要因を明らかにするための解析を行った.2008年9月に小佐渡地区の77箇所の水田または休耕田を対象に,これら5種の個体数をスイーピングと目視によってカウントするとともに,水田サイズ(周長),耕作状況(耕作田か休耕田か),畦周辺の草丈を記録した.これらの野外データとGISを用いて様々な空間スケールで抽出した景観データ(水田被覆,林縁長)をもとに,対象生物の個体数や分布を制限する要因を一般化線形モデルを用いて推定した.その結果,景観要因については,対象生物によって景観要因を抽出する最適な空間スケールが異なっていた.個体数の多いコバネイナゴでは水田被覆は常に個体数にプラスの効果を示し,ホシササキリとエンマコオロギでは水田被覆だけでなく林縁長の交互作用が個体数や分布の決定に関与していた.局所要因については,草丈が35~50cm程度の環境でコバネイナゴ,ホシササキリの個体数やクサキリの存在確率が大きく,エンマコオロギの存在確率は休耕田で高かった.以上の結果から,トキの採餌環境として水田生態系におけるバッタ目昆虫の個体数と多様性の維持や増加を目的とした水田管理を考える際には,休耕田を含む水田地帯を平野部に維持し,畦や周辺環境での草刈りの頻度を抑えることが有効であると考えられた.

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© 2009 応用生態工学会
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