抄録
小型魚類にとって沈水植物群落は,捕食者からのシェルターとして,また採食の場として重要とされている.しかし富栄養化に伴い多くの湖沼で,沈水植物群落は衰退もしくは消滅している.このような状況で沈水植物群落が果たしていた役割を抽水植物群落が代替できるか検討することを目的として,手賀沼のマコモ群落とヒメガマ群落の魚類相を比較した.また捕獲した魚類の炭素・窒素安定同位体比を分析して,食性の比較を行った.マコモ群落の株密度は,6 月と 8 月の両観測時共に,ヒメガマ群落の 2 倍以上であった.魚類の種多様性はマコモ群落の方がヒメガマ群落より高かった.安定同位体比の結果から,両群落の魚類の食性は近似していると推定された.小型魚類の密度は,マコモ群落の方がヒメガマ群落より大きかった.ただし両群落とも,優占した小型魚類はモツゴであった.マコモ群落とヒメガマ群落において魚類生息状況に差異が認められたことから,抽水植物の植栽においては,その魚類相に与える影響も考慮すべきと考えられた.