応用生態工学
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事例研究
地元住人と行ったイシガイ科二枚貝類の農業水路からの救出と一時保管
三浦 一輝斉藤 裕也伊藤 一雄大森 秋郎
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2014 年 17 巻 1 号 p. 41-46

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抄録

埼玉県川島町における農業水路の改修工事に伴い,水路幅 1 m,長さ約 190 m の対象水路に高密度に生息していた希少生物マツカサガイの個体の救出と一時保管作業を行った.救出作業は淡水二枚貝の採捕経験がない者でも行えるよう,水を抜いた水路底あるいは掘削した底泥から熊手を用いて行った.また,マツカサガイは冬季には底質中に比較的深く潜行することから,パワーショベルを用いて表層 20 cm 以浅の底泥を掘削してその中からマツカサガイの回収を試みた.保管作業は,マツカサガイが定位するための底質を用意し室内で保管する方法と,底質を用意せず野外の池で簡便に保管する方法の 2 つを試み,3 ヶ月間保管した.結果,2 つの救出作業により 741 個体のマツカサガイが回収された.また,パワーショベルにより掘削した底泥からの個体の回収により全体の 17%にあたる 127 個体のマツカサガイが回収された.2 つの保管作業の結果,目視による死亡が確認された個体はなかった.これらの結果から,作業者の採捕経験の有無に関わらず作業を行えるように工夫を施すこと,パワーショベルを使用した掘削など,表層のみの採捕では救出できない個体や,底質深くに定位していた個体を回収する工夫を施すことは重要であると考えられた.但し,本事例では 20 mm 以下の小型の個体の有無の確認や回収は行うことができず,今後の事前調査や救出作業の工夫が求められた.また,2 つの保管作業は冬季において数ヶ月の間,個体を生きたまま保管できると考えられた.但し,個体が痩せるなどの生理的な状況については評価できておらず,より個体への負荷が少ない方法を確立する必要がある.今後,水路改修後の再生産の有無や生残数をモニタリングし,可能なかぎり順応的な管理を行っていく予定である.

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