教育社会学研究
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教育社会学における「地方の若者」
片山 悠樹牧野 智和
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2018 年 102 巻 p. 5-31

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抄録

 近年,「地方の若者」が静かなブームとなっており,教育社会学にもその波が押し寄せている。ただし,地方の若者論は「未熟」なテーマであり,今後テーマとして体系化することは可能であるのか。それは,どのような方向性で進められるべきか。本稿の目的は,教育社会学のなかで地方の若者がどのように扱われてきたかを整理し,地方の若者論の課題を抽出することである。
 学会草創期の1950年代には,農山漁村の教育に対して強い関心が抱かれ,そこに住む若者(青年)たちに関する実態調査が数多く実施された。こうした傾向は1960年代までつづいたが,高度経済成長期を迎えると,農山漁村の青年から都市の青年へと焦点が移行する。以降,地方の若者に関する研究蓄積は鈍っていく。
 一方で,高校教育の拡大や一括採用制度の拡がりのなか,学校に焦点をあてた研究が増加し,そうしたなかで都市/地方の若者の違いは認識されにくくなっていった。
 ところが,若者の移行の不安定化が問題となるなか,地方の若者が研究対象として再浮上する。1990年代後半には若者の不安定就労が社会問題となったが,都市的な現象として理解される傾向にあった。しかし,2000年を越えたあたりから,地方の若者の不安定就労が指摘されるようになり,教育社会学のなかでも地方の若者の移行に取り組む研究があらわれるようになった。ただし,移行だけにとどまらず,地方の若者の「生活」を包括的に理解する研究はまだ少ない。
 地方の若者論をブームで終わらせないためにも,かつての課題を反省的に検討しなければならない。それとともに,教育社会学固有の「地方の若者」論を試みる必要があろう。

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© 2018 日本教育社会学会
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