2018 年 103 巻 p. 25-45
本稿の目的は,「音楽で成功する」といった夢を掲げ,その実現に向けて活動するロック系バンドのミュージシャン(以下,バンドマン)を事例に,夢の実現可能性に関する解釈実践の内実を検討し,若者が夢を追い続ける社会的背景を明らかにすることである。バンドマンを対象とした質的調査の結果に基づき,次の4点を明らかにした。
第1に,夢の実現可能性に関するバンドマンの語りの特徴として,可能性と限界という2つの認識が内包されていることを示した。そして,なぜ夢の実現可能性に限界を感じながら,夢を追い続けることができるのかを検討した。
その結果,第2に,「夢の実現には時間がかかる」という認識枠組みが獲得されることによって,また第3に,周囲のバンド仲間の状況を選択的に参照する行為によって,夢を実現できていない自己の正当化と将来における夢の実現期待が同時に達成されることで,夢を追い続けることが可能になっていると指摘した。加えて,第4に,夢の実現可能性を低く見積もる因習的見解からの作用が,バンドマンの夢追いアスピレーションを加熱させることで,夢追いの継続という意図せざる帰結を導いてしまうことを明らかにした。
以上の知見をもとに,先行研究で論じられてきた進路選択・進路指導の実践を再考し,教育社会学においても積極的に学校外部へと視野を広げて,子ども・若者の進路選択プロセスを検討する必要があると論じた。