2020 年 107 巻 p. 111-132
本稿では,NHK放送文化研究所が2012年に実施した「中学生・高校生の生活と意識調査」のデータを用いて,中高生の教育期待形成における父母の教育期待の相対的重要性について検討した。Diagonal Reference Modelによる分析の結果,父母の教育期待の相対的重要性を表すウェイトの推定値はそれぞれ0.363(36.3%)と0.637(63.7%)であり,母親の期待が父親の期待よりも子どもの大学進学期待と強く関連していることが示された。同時に,母親の期待に比べて関連は弱いものの,父親の期待もまた子どもの大学進学期待とのあいだに一定程度の関連を有していることが確認された。なお,父母の教育期待のウェイトは子どもの性別には依存していなかった。父母の教育期待の不一致に着目した分析を行ったところ,父親だけが子どもに大学進学を期待している場合は,サンプル全体の分析結果と同様に,母親の教育期待のウェイトが相対的に大きかった。しかし,母親だけが大学進学を期待している場合には父母の教育期待のウェイトは同程度であり,必ずしも母子間の期待の関連が父子間の期待の関連よりも強いわけではないことが示された。また,父母の教育期待の組み合わせは階層的地位(学歴や職業)と関連していた。以上の知見は,教育達成の階層間格差の生成プロセスにおける家族の影響を捉える上で(母親の期待だけでなく)父親の期待の役割を考慮することの重要性を示唆するものである。