教育社会学研究
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コロナ禍におけるアメリカの大学
福留 東土
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2023 年 112 巻 p. 119-144

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抄録

 本稿は,COVID-19パンデミックによってアメリカ合衆国の大学がいかなる影響を受けたのかについて考察する。アメリカの大学は,先進諸国の中で最も甚大で多方面にわたる影響を受け,パンデミックは歴史的転換点と言えるインパクトを残した。アメリカの大学は多様な機会を捉えて大学システム内外に市場を創出し,それらを巧みに組み合わせつつ,質を伴った教育・研究・サービスという価値を創造するべく,資源を拡大させてきた。人々の社会的接触が絶たれる中で,それら一連の市場機能が一斉に不利な方向に振れたことが他国に類を見ない大規模なダメージをもたらした最大の要因ではないかというのが本稿の仮説である。また,コロナ禍で各国が受けた影響の違いをみることで,各国の高等教育システムの特質が透けて見える点も,コロナ禍がもたらした副産物である。大学進学を巡る市場において,アメリカでは入学志願者が,いつ大学に入学するかについて選択肢を行使しうることが,入学者減少の一因となった。翻って日本では学生数の減少は起きなかったが,その背後には,入学者市場の安定性が,大学志願者の選択を固定化させる社会的条件によって下支えされていることがみえてきた。日本においてコロナ禍がもたらした最大の変化はオンライン教育の普及であると言われる。しかし,社会的危機という同じ環境に置かれた他国の情勢と対比させることで,それとは異なる高等教育システムの根本的課題がみえてくる。

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