2016 年 99 巻 p. 47-67
本稿は,教師たちが曖昧な校則下での組織的で厳格な指導をどのように/どのようなものとして論じたのかをエスノメソドロジーの方針により解明することを目的とする。ここでは中学校の登校用バッグの色指定をめぐる議論を対象とする。対象校にはバッグの色に関する細則規程はなかったが,生活指導担当者はそれを黒に限定する指導を行っており,保護者からのクレームを機に教師間で議論となった。教師たちの度重なる議論からは,彼/女らが「規程にはないが指導対象となる事項(=不文指導事項)」というカテゴリーを共有していることが確認された。この中間的カテゴリーは,「共通理解による共同的指導は明文規程による義務的なそれに優先する」との規範によって支えられており,こうした規範があることで,不文指導事項は曖昧な校則と厳格な指導との間に折り合いをつけるための妥協の産物ではなく,教師たちの主体的協働の証として積極的な評価を与えられ得るものとなっていた。
他方で,相互行為のなかでは,文書主義・反管理教育といった規範や,指導の歴史的経緯が参照されていた。しかし,文書に拠らない管理教育的な指導が否定されていないこと,また,指導の歴史が遡及的に構築されていたこと等は規範や歴史が人びとの議論を規定するとの説明が不十分なものであることを示している。むしろ,それらは文脈のなかで参照されることで,それとして表出しながら,その場の議論を構成するという相互反映的なものとして見ることができるだろう。